regenerative Buying

みなかみの恵みから⽣まれたイヌワシペ ーパー

多くの⾃然の恵みを使って商品を作っているラッシュは、この先もお客様 に商品を届け続けるため、⽣物多様性の保全・再⽣を⽬指し、新しい形で 紙づくりに携わり始めました。

「もともとラッシュは商品に使う原材料や資材に対して、社会や環境にポジティブな影響を与えると いう信念を持って購買活動をしてきました。世界中のラッシュのバイヤーたちは何年もの間、持続可能な原材料を調達する“サステナナブルバインング”を掲げていました。ただ、 昨今皆さんも感じているかもしれませんが、地球上に存在する社会的、環境的な課題は深刻化 していて、今普通に原材料を調達しようとすると持続的なものってないんですよね。なので僕らは持続可能な購買というのを少し諦めることにしました」。 

こう話すのはラッシュジャパンでバイヤーとして15年以上フレッシュな商品の原料調達に注⼒し続けるTakashi。 

「極論ですけど、このまま続けても持続可能なんてありえないと思ったからです」。

ラッシュのバイヤーたちには新しい原材料の調達⽅法を切り拓く必要性が求められていまし た。お客様が⼿にする商品の数々も、元を正せば多くは⾃然の恵み。その原材料が再⽣可能な形で調達できなければ、この先ラッシュはお客様に商品を届けることができなくなる。だからこそ、未来を⾒据え、ラッシュが原材料を購買することで社会や環境に対して再⽣的な活動ができないか、考え始めたと⾔います。それが2016年から少しずつ始まった「リジェネラティブ バイイング (Regenerative Buying)」という考え⽅です。 

「リジェネラティブバイイングとは、⽇本語にすると再⽣的購買、再⽣可能な原料調達とい う意味で、ラッシュのバイイングチームでは2016年くらいから “サステナナブルバインング”に代わり、これを掲げて商品の原料調達を始めました」。 

リジェネラティブバイイングにおいて、バイヤーたちが注⽬しているのが、渡り⿃。⼈間が決めた国境にとらわれずに世界中を⾶び渡ることから、ブランドの信念に「Freedom of Movement (移動の⾃由)」を掲げるラッシュにとって象徴的な存在でもある⿃を追いかけ、その先々で再⽣可能な原材料を探す購買活動が始まりました。

⼀⾒闇雲な活動に思えますが、実は多くの渡り⿃が今⽇、中継地の著しい環境の変化や違法な狩猟により絶滅が危惧されています。彼らが生存していくためにこの先々の環境改善が⼀刻も早く求められているのです。逆に⾔えば、渡り⿃が向かう先々の環境を、⾃然だけではなくその地で暮らす⼈たちの経済の循環も⾒据えた上で豊かさを探求していくことで、渡り⿃を守るだけなく、周辺の地域コミュニティの再⽣にも寄与できたらと考えているのがこの活動です。 

こうして⽇本でもバイイングチームのTakashiを筆頭に、⽇本にいる渡り⿃を追い始めたところまず最初にたどり着いたのが、公益財団法⼈⽇本⾃然保護協会が地元の地域業議会と協働する「⾚⾕プロジェクト」の活動拠点、群⾺県みなかみ町でした。 

「⾚⾕プロジェクト」は、1万ヘクタールという⼭⼿線の内側の⾯積よりも広い⾯積を持つ⾚⾕の森で、⼈⼯林を伐採することで森の豊かさを復元し、⽣物多様性のある森を取り戻すプロジェクトです。この背景には、現在⽇本が抱えている⼈⼯林の問題があります。

国⼟の約7割を森林が覆っている⽇本は⼀⾒⾃然豊かに⾒えますが、実はその4割は戦後の国策として国内の⽊材需要の増加から⼈間の⼿によって植林された⼈⼯林。植えた⽊が育つまでの間、⽊材を海外からの輸⼊に頼ってきた⽇本では現在、適切な管理がされないまま、⽣態系の循環ができない状態になっている森が各地に存在しています。

「でも僕たちいきなり失敗していて、渡り⿃を追い始めたのに、⾚⾕の森に⽣息するイヌワシって、渡らない⿃だったんです」とTakashiは笑いますが、森の⽣態系において⾷物連鎖の頂点にいるイヌワシは昔から豊かな森の象徴として知られています。しかし、現在⽇本では個体数が約500頭にまで減ってと推定されるイヌワシは、絶滅が危惧されています。適切な管理がされずに⽊が密集している⼈⼯林では、翼を広げると2メートルにもなるイヌワシが上空から獲物となる野ウサギやヘビなどの動物を探すことができません。またこのような森には、太陽の光が⼊らないため地表の植物も育たず、森に暮らすイヌワシ以外の動植物も⽣きづらい環境になり、⽊はやせ細り、⼤⾬による⼟砂災害も起こりやすくなってしまいます。 

そこで⾚⾕プロジェクトでは、⼈⼯林も多く残る⾚⾕の森にイヌワシが狩りをしやすい環境 を作るために間伐・皆伐し、⽣態多様性豊かな⽣態系を復元させる活動が⻑年⾏われています。その結果、⾚⾕の森では6年ぶりにイヌワシのペアが⼦育てに成功するという嬉しいニュ ースもありました。伐採された⽊材は⾃然の恵みとして地域振興に使ってもらいながら、地域コミュニティを豊かにすることでみなかみ町全体の豊かな循環も⾏われています。

特定の原材料を求めてその⼟地を訪れるのではなく、その⼟地の環境や⽣態系を⾒て、そこ にある⾃然の恵みをどう商品に使えるかを考えることがラッシュのバイイングチームの姿勢。今回も木材を求めて⾚⾕の森を訪れたのではなく、⿃を追い求めるうちに出会った現地で活動されている⽅々の熱い想いが、この地で再⽣可能な原料の調達を⾏いたいという気持ちにつながり、⾚⾕の森とみなかみ町を豊かな環境と経済の循環が⾏えるリジェネラティブな形にしていくイヌワシプロジェクトを始めるきっかけとなりました。こうしてこの地域で何かできないかと思考を巡らせ⽣まれたのが、みなかみ町で⽇本の伝統的な⼯法で家づくりをする過程で出た⽊くずを原料にした「イヌワシペーパー」です。 

「⼈と⾃然が共⽣していくなかで⽊に関わらないことはなく、今回のような形で出た⽊もきちんと考えられた状態でものづくりをできれば、⽊くずでさえもラッシュにとっては“くず”で はなく⼤切な原料、素材。新しい形で⽊に頼ってみようと思いました」とTakashiは⾔います。

イヌワシペーパーの開発にあたり、キーワードとなったのは「伝統⽂化」。⽊を伐採することで森の姿をあるべき姿に戻し、地域の職⼈がそれを加⼯、そこから出た⽊くずを四国で150年続く⽼舗の和紙屋さんで和紙にしてもらうことができました。今⽇使⽤シーンが少なくなった和紙をラッシュ独特の鮮やかなデザインを施すことで、和紙特有の⾵合いや肌触りを残したまま、「和紙は⾼くて古いもの」「古いものは古くてダサいもの」ではなく、「古くて良いもの」という価値を⽣み出しました。こうしてイヌワシペ ーパーが完成しました。

継続的かつリジェネラティブな形での環境保護活動には、地域づくりの側⾯も忘れてはいけません。そんな思いから、イヌワシプロジェクトでは、イヌワシペーパーの他にもう⼀つ、 「カスタネットペーパー」も⽣まれました。実はみなかみ町はカスタネットの⽣産地として有名で、⾚⾕の森の⽊材を使ったカスタネットを製造する⼯房で出る⽊くずを利⽤してつくられたギフトペーパーです。森を豊かにしていくために⼈が⼿を加え、そこから得た恵み(⽊材)を ⽣活に役⽴てていくという循環がそこにはあります。 

このような背景で⽣まれた2種類のギフトペーパーですが、⽣産・調達するにあたってもち ろんコストはかかります。しかし、これらのギフトペーパーは今⽇時点でのコストだけでなく、 10年、20年先の地球規模でのコストを⾒据えて調達をしています。これはイヌワシペーパー だけではなく、全ての原材料調達においてラッシュのバイイングチームが⼤切にしていることです。 

まだ始まったばかりのイヌワシプロジェクトですが、2018年9⽉、⾚⾕の森の恵みである⽊ 材を利⽤し、森を豊かにしていくスタートアッププロジェクトが国内2例⽬となるRe:Fund (Regenerative Fund、リファンド)に採択されました。 

Re:Fundは、世界中で社会や環境の再⽣に向けた取り組みを⽀援し、サプライチェーンの⻑ 期的なレジリエンスの構築に取り組みながら、「避難と災害 (Displacement & Disaster)」「パーマカルチャーと⽣態系農業 (Permaculture & Agroecology)」「再野⽣化と⽣物多様性 (Rewilding & Biodiversity)」という3つの分野で率先的に活動している団体と相互的に利益 のある関係を構築することを⽬的に発⾜した、ラッシュがグローバルで運営している基⾦です。今回の⾚⾕の森でのプロジェクトでは、およそ2ヘクタールの⼟地に桐の植林を⾏い、かつてこの地域に存在した⼭裾に桐を植える⽂化を復活させることを⽬的に、ラッシュと⽇本⾃然保護協会、そして地域コミュニティが協⼒して、環境にも地域経済にも価値を⽣み出す活動を植林を通して⾏います。桐は植林して5年ほど経つと、毎年春に紫の⼩さな花を咲かせま す。「プロジェクトが始まって5年後には、関係者みんなで花⾒をしたい」と話すTakashi。 

森から地域へ、地域からお客様へ、そして⼤切なあの⼈へ。カラフルなギフトペーパーに包 まれたプレゼントだけではなく、みなかみの豊かな⾃然やコミュニティの再⽣をめざしたスト ーリーも⼀緒に届けてみませんか。

イヌワシペーパーができるまで
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