目次
PART 1. 本レポートの概要
PART 2. デジタルドライバー
PART 3. ソーシャルフレームワーク:デジタルエンゲージメント・マニフェスト
PART 4. デジタルエンゲージメントの未来
PART 5. 結び
PART 1. 本レポートの概要
PART 2. デジタルドライバー
PART 3. ソーシャルフレームワーク:デジタルエンゲージメント・マニフェスト
PART 4. デジタルエンゲージメントの未来
PART 5. 結び
なぜ化粧品会社であるラッシュがデジタルエシックスを気にかけているのでしょうか。それは誰もが、地球と地球上の生命の将来を考える義務を負っていると考えているからです。ラッシュは、デジタル権(digital rights)は人権であると確信しています。世界全体で包括的にこの課題に対する意識を変えないと、デジタルライツも人権も脅かされてしまいます。人類は、もはやこの課題を前に見て見ぬふりをしている場合ではありません。ですから、私たちは本腰を入れて、大きな課題を自らの手で少しでも変えていこうとしています。
正しいと思う信念に責任を持ち続けるために、ラッシュは2016年にデジタルエシックスポリシーを策定しました。ラッシュはデジタル関連の製品を開発、設計、発売するたびに必ず検討を重ねています。これらの方針は、今ではラッシュEBT(従業員共益信託)の「エシカル憲章」にも盛り込まれ、企業として意思決定をする際には繰り返しこの基準に近づくことを目指しています。
この基準は常に厳守すべきというより、あらゆる製品を設計する際に検討すべきものだと考えています。ラッシュがパーム油を使わない代替材に移行する必要性を認めながらも、全ての商品からパーム油をすぐに使用しないことはできないと知っていることと同様に、私たちはこれらのポリシーを継続して目指し続けるものと定めています。これらの方針を整理すると、ラッシュのデジタルエシックスポリシーは以下の3つの要素で構成されています。
極論を言えば、ラッシュは小規模なテクノロジーの力を信じています。ラッシュが「反SNSブランド」と呼ばれ始めるきっかけとなったソーシャルメディアからサインアウトを図ったことと同様に、私たちはMeta社などのビッグテックから距離を置き、より小規模で、よりアジャイルなオープンソースコミュニティを支持しています。私たちは、Googleの「商標の略奪」とも呼べる底なし沼への依存をゼロにしたいと考えています。代わりに、例えばメタバースなどの方法で(ザッカーバーグ氏の道半ばバージョンではなくて)、より倫理的に、より信頼できるデジタル上の文脈の中でお客様と関わっていくことを望んでいます。私たちはビッグテックへの挑戦の瀬戸際にいると感じていますが、堂々と立ち向かっていきたいと思います。
このレポートをご覧になる皆さんがどのような感想をお持ちになろうとも、私たちはデジタルの未来は明るく、社会と地球が建設的に調和し合えるテクノロジーの可能性があると強く信じています。最先端の技術と若年世代が巨大勢力に対峙する中、私たちはより明るい未来の兆しを見始めているのです。以前は独占企業だけが存在したことに関して、なぜそれが許されたのか、その理由について見識のある意見が見られるようになりました。Web2の父祖、考案者であるティム・バーナーズ=リー氏が当初意図したものに類似する、分散型でオープンなウェブを求める声が高まっているのです。デジタルの世界とリアルな世界が融合することで、喜びと独自性に富んだ体験が生まれ、不可能と思われていたことが可能になるという前向きな考え方もあります。同時に、現実世界(In Real Life, 以下IRL)とオンラインの世界の境界があやふやな状況では、「大金=大きな影響力を持つ」という金銭的制約から解放されます。分散されたデジタルの世界では、金銭的価値より高潔な価値がより強い影響力を持ちます。
を対象にアンケート調査を実施
個人レベルでも社会レベルでも、テクノロジーへの依存はますます強まっています。健康、幸福、仕事、ウェルビーイングなど目的は違っても、今日を生きる我々人間はデジタルに依存しています。しかし、既存のデジタルプラットフォームが世界を変えるという期待が薄れつつある今、ブランドも消費者も同様に、デジタルへの依存やその関係性を考え直しています。
メタバース内で人々が自分の本当のスタイルやアイデンティティを見いだせることを目的とするプラットフォーム、Idoruの最高経営責任者であり教育専門家、著述家でもあるミカ・ル・ジョン氏は、「デジタルカルチャーは現在、非常に細分化されています」と語ります。コンサルタント企業、Careful Industriesのテクノロジーエキスパート兼創立者のレイチェル・コルディカット氏はル・ジョン氏に同意し、次のように語っています。「例えば、ソーシャルメディアプラットフォームは企業としての存在価値を確立できず、それぞれが一度に全ての機能を果たそうとしています。そのプロセスの中で、プラットフォームは人々の真のニーズを満たすことをやめています。テクノロジーは社会を通して変貌でき、力となり、ネットワーク構築を可能とするだけでなく、社会の絆を強め、人々の紛争を解決し、コミュニティが計画的に動く手助けができます。しかし市場シェア、強固な権力、資本主義、監視、敵対的な環境によって支配されている状況はさまざまな場面で見受けられます」。
では、ブランドはどのような対応をすべきでしょうか。イギリス、米国、日本で実施した本調査では、ソーシャルメディアプラットフォームが倫理的でない場合、ブランドはそこから離れるべきと考える人は全体の69%でした。また62%はリーチできる人数を重視するより、ソーシャルメディアプラットフォームの倫理感を重視するブランドを尊重することが明らかになりました。
既存のデジタルカルチャーに対する懸念が高まる中、テクノ・オプティミズム(技術楽観主義)の人々は依然として未来を明るく捉えています。本調査によると、デジタルプラットフォームのメリットとして、他人との関係を結ぶこと(33%)や、同好の士を見つける(29%)など、消費者のための多くのメリットを今でも提供していると答えています。一方で過半数(57%)はテクノロジーが生産性を高め、39%はソーシャルメディアは自己のアイデンティティの表現に役立つと考えているという結果が出ています。
ラッシュのディレクターであるアナベル・ベイカーは、次のようにコメントしています。「デジタル空間で起きている積極的な行動を増やし、発展させる必要があります。私たちが今見ている世界の先には、安全な環境で多くの人々が関われる別の未来があります。できないことではなく、できることへとナラティブをシフトする必要があります」。
このような積極的な行動は、人工知能(AI)やメタバース、そして次世代の分散型インターネットであるWeb3など、急速に変化するテクノロジーの状況によってさらに促進されており、物事の新しい進め方が期待できます。
しかし、未来がどうなるのかを把握するのは大仕事です。ラッシュの共同創立者兼CEOであるマーク・コンスタンティンは「あまりにも多くの技術革新の兆しがある今、将来の見通しは立てづらいのです」と語ります。「急激なデジタルによる破壊から10年後の社会、環境、経済、文化の様相について理解を深める必要があります」。
ラッシュは、テクノロジーとは社会や環境から奪うよりも多くのものを与えるという考えのもと、将来展望を提供する戦略コンサルタントのフューチャー・ラボラトリーと提携し、その実現を試みました。エシカルなデータ、エシカルなハードウェア、オープンソーステクノロジーをすでに支持しているラッシュは、商品に使う原材料を倫理的に調達するように、大きな意味での「善」の創出のためにテクノロジーをどのように構築できるか、どうすればテクノロジーが社会にポジティブな変革をもたらせるのかということを実証しています。
本レポートでは、急速に移行するデジタル環境とそれが及ぼす消費者への影響、デジタルトランスフォーメーションに対する既存の障壁を調査し、今後10年及びそれ以降の展望を説明します。私たちは、倫理的な革新を引き起こせるデジタルエンゲージメントの新たなマニフェストを提示し、未来志向の組織が構築できる新しいソリューションと空間を解き明かします。
そのために私たちは、テクノ・オプティミズム(技術楽観主義)の未来の進展を支援する専門家5名にインタビューしました。またデジタルに対する消費者のニーズや願望のほか、デジタルエンゲージメントやソーシャルメディアに対する消費者の展望を理解するために、イギリス、米国、日本の1万2,000人以上を対象にアンケート調査を実施しました。
フューチャー・ラボラトリーの共同設立者であるマーティン・レイモンド氏は、次のように語っています。「デジタルカルチャーは良くも悪くも、我々の想像以上に普及し、没入感が強まり、変革をもたらす可能性が高まるでしょう。私たちは現実世界と同様に、デジタル空間を管理できる基本的な枠組みを作り上げなければなりません」。
一世代に一度あるかないかのような危機に直面している昨今、世界は過去10年間に想像していた以上の変化を経験しています。特に、気候変動や世界規模のパンデミック、地政学的不安定などによって、文化的、経済的、政治的、社会的な優先事項は全て変化し、現在テクノロジーを取り巻く環境は混迷状況にあります。
既存のデジタル空間の罠から離れ、世界を変えるAIの可能性や期待されるWeb3の分散化に到達しようと、変革が進んでいます。このようにテクノロジーの変革が進む中でどのような変化が引き起こり、その変化はデジタルエンゲージメントの未来にどのように影響を及ぼすのでしょうか。
状況は、変化の渦中にあります。本調査から、過去12ヶ月の間にソーシャルメディアに費やす時間は減っていることが明らかになりました。Metaユーザーの35%(内FacebookとMessengerが17%、Instagramが18%)、Pintrestユーザーの27%、Twitterユーザーの24%、Discordユーザーの24%、Snapchatユーザーの24%、BeRealユーザーの22%、TikTokユーザーの18%、LINEユーザーの16%が、1年前に比べてプラットフォームの利用時間が減少しています。
ラッシュのチーフ・デジタル・オフィサーであるジャック・コンスタンティンは次のようにコメントしています。「人々はソーシャルメディアを避けつつありますが、その理由は複雑です。ソーシャルメディアに期待されることは、つながり、表現、コミュニティです。しかし今、多くの消費者がソーシャルメディアを信用していません。デジタルプラットフォームを敵対的な空間として体験している消費者さえいます。本調査では驚くことに、消費者の49%がソーシャルメディアプラットフォームはハラスメント、有害事象、情報操作からユーザーを十分に保護していないと考えていることが分かりました」。
多くの点で、プラットフォームの社会的側面は長い間放置されてきました。デジタル空間は次々とデジタル・ウェルビーイング(健康や生活の質向上のためにテクノロジーと適切に向き合う取り組み)を害し、人々を対立させ、不信を増幅させ、有害な投稿に報酬を与えるメディアプラットフォームに完全に変わってしまいました。
「ソーシャルメディアの社会的な側面は、もはや存在していません。今では社会的な関わりではなく、コンテンツが中心となっているのです」とIdoruのCEOで教育専門家、著述家であるミカ・ル・ジョン氏は述べています。この見解は消費者も支持しています。本調査では、調査対象消費者の44%がソーシャルメディアはもはや社会的ではないとしています。
ソーシャルメディアのコンテンツによる影響も有害であることを証明しています。イギリスの消費者の63%と日本の消費者の53%は、ソーシャルメディアプラットフォームは両極端な意見の緩和において十分ではないと考えています。「一般大衆向けの店が同じような感情を抱かせたり、極端な意見をあおっていたりしたら、支持を得ることはなかったでしょう。でもデジタル空間では、それが現実のものになってしまっているのだと「ニュー・ダーク・エイジ テクノロジーと未来についての10の考察」の著者であるジェームズ・ブライドル氏は語っています。
これは世界の様々な地域で感じられていることです。東京を拠点とするユースカルチャーのマーケティングエージェンシー、未来集団(Future Collective)のオーナー、ダニー・ギャラガー氏は「日本のソーシャルメディアは米国のそれと比べると比較的純粋である一方で、その裏側には暗い面もあることはまちがいありません」と語っています。いじめ、デジタル空間ではネットいじめと呼ばれているものは、日本のZ世代の間でまん延しています。
残念なことに、このような危険な結果が多くのソーシャルメディアプラットフォームを成功させることは避けられません。本調査の回答者の58%は、ソーシャルメディアでは論争の注目度が不当に高いと考えています。しかし、コンテンツを密かに兵器化できるアルゴリズムのせいで、多くの人々はどこまでがデマなのかに気づけません。ソーシャルメディアプラットフォームが意図的に攻撃的な(31%)、又は偏向している(29%)投稿やプロフィールを許可していることに気づいていながら、それらを削除しない場合、もし真実が明かされれば多くの消費者がそのようなプラットフォームの使用をやめることでしょう。
コンサルタント企業、Careful Industriesの創立者兼テクノロジーエキスパートのレイチェル・コルディカット氏は次のように語っています。「エンゲージメント指標がいかに積極的に分断をあおり、増大させるかという話を内部告発者から聞きました。ソーシャルメディアプラットフォームはこの状況を知っていますが、エンゲージメント向上が最も利益を生むため、とにかく実行するのです」。本調査の回答者の中にはこのことに気づいている人もいます。回答者の36%はソーシャルメディアの投稿は信用できない、不正確な情報を与えていると答えています。
LiiV Centerのチーフ・デジタル人類学者であるケイティ・ヒリヤー氏はこれに同意し、ソーシャルメディアプラットフォームとその進化について継続して再評価する必要性を次のように語っています。「ソーシャルメディアを運営する企業の大半は、ユーザーの保護ができていません。単にソーシャルメディアプラットフォームを『設立だけして、その後のことは気にかけない』ことはできません。デジタル空間を安全で安心な場とするには、デジタルカルチャー、普遍的文化、人々を繰り返し深く理解し続ける必要があります」。
内部告白者からの証拠や証言が増すにつれ、未来志向のブランドは、ソーシャルメディアプラットフォームに対する支持を考え直さざるを得なくなります。ラッシュはその一例です。ラッシュのSNSの利用に関するポリシーには、ラッシュが使用するプラットフォームは、有害事象からユーザーを保護するために最善を尽くし、データ利用の透明性を守り、ネガティブなコンテンツでユーザーを狙うアルゴリズムを使用しないという責務が表現されています。
市民はこのような行動を支持しています。本調査では、成人の62%がリーチできる人数を重視するより、ソーシャルメディアプラットフォームの倫理感を重視するブランドを尊重すると答えており、70%がソーシャルメディアは明確なポリシーを策定し、維持する責任を持つべきことに同意しています。また、ソーシャルメディアプラットフォームを利用していない、または距離を置いているブランドも、責任があり(21%)、信念を持っている(16%)と認識されていることが分かりました。
ラッシュの共同創立者兼CEOであるマーク・コンスタンティンは、次のようにコメントしています。「一部のソーシャルプラットフォームは、アルゴリズムや不十分な規制のために人々、特に若者がさらされている明らかな危険を認識しているという証拠があります。私たちはお客様をこのリスクにさらしたくはありません。悪習が改善されるまで、今は危険にさらされないよう講じる時です」。
の消費者は、ソーシャルメディアがユーザーを十分に守ることができていないと感じています。
世界中でビッグテックによる独占が明らかになっています。ハーバード・ビジネス・レビューによれば、世界中のオンライン広告費の50%以上が、Meta社やAlphabet社によって占められています。検索では、Googleが占める割合は米国で60%以上、日本で75%、欧州で90%以上でした。一方、アマゾンウェブサービス(AWS)単体の2022年収入は800億ドルで、ブルームバーグはAmazon社の時価総額を1兆ドルと見込んでいます。
レイチェル・コルディカット氏は次のように語っています。「過去10年間、消費者やユーザーがテクノロジープラットフォームにエンゲージメントやコンテンツを無償で提供するという奇妙なシステムが進められてきました。ビッグテックは、このあやふやな関係をこっそりと常態化させ、ユーザーが実質的に無償でプラットフォームのために働くようにしているのです」。
ビッグテックによるこのような無秩序な独占が企業に対する反発感情、通称テックラッシュを引き起こしました。ビッグテックの優位性が退潮傾向にあることは、本調査からも確認されています。GoogleとAmazonが倫理的な情報の信頼できるソースであると考えているのは、回答者の約52%に過ぎませんでした。一握りの企業がインターネットをどれほど支配してきたかに対して世間の関心も高まり、ビッグテックによる社会の無秩序な支配への挑戦が活発化しています。
本調査の回答者の57%が大手ブランドや企業がテクノロジーやオンラインカルチャーを支配していると感じており、55%がビッグテックによるオンライン支配の弱体化を求めています。この傾向はイギリス、米国でそれぞれ60%、61%にのぼっています。
その社会的影響力以外にビッグテックの内部の仕組みの非効率さや透明性の欠如も、人々の欲求に影響を与えています。「主体性を持つ、つまり、置かれている状況を知り、周囲のものと自分の関係を理解すること、そして、これが重要なのですが、物事が自分の管理下にあると感じることは、人間のもっとも基本的な心理的欲求です。ですから、ほとんど、または、まったく自分の支配下に及ばないデジタル空間で活動する場合は、たえず攻撃を受けることになります」とジェームズ・ブライドル氏は語っています。
独占的なデジタル経済の細分化を目指し、規制当局は金銭的収益ではなく集団の利益を優先する、反トラスト法や児童保護法などの倫理政策に焦点を合わせています。本調査から消費者が関心を寄せていることは明らかです。調査対象者の70%はオンライン体験全体を通して、ユーザーの安全を保護する世界的な法規制を求めています。
早急な変化が必要とされています。一時解雇や株式動向の落ち込みは、ビッグテックに逆風が吹いている可能性を示唆しているとして、ジャック・コンスタンティンは次のように語っています。「ビッグテックの支配を脅かそうとしている最先端の技術を駆使するIT企業に対して、ビッグテックは利益を守るために積極的に政府などに働きかけています。同時にビッグテック、将来の没入型のデジタル空間を独占しようと、仮想土地を収奪しています」。
もの本調査の回答者が、大手ブランドや企業がテクノロジーやオンライン文化を支配していると感じています。
の消費者はソーシャルメディアプラットフォームは第三者から消費者のデータを十分には保護していないと考えています。
BI(ビジネスインテリジェンス)プラットフォームを提供するDomo社によれば、人類はこれまでにないほどデジタル空間に接続しており、現在では毎日250京バイト以上のデータを生成しています。データの共有、買い物、仕事、個人情報の開示など、人々はかつてないほどデジタル空間で時間を過ごしているため、当然ながらデータプライバシーは世界中の消費者にとって大きな関心となっています。
ところが多くの企業は問題の重大さを軽視しています。イギリスの消費者の60%は、ソーシャルメディアプラットフォームは第三者から消費者のデータを十分には保護していないと考えています。また、世界中の消費者の65%はソーシャルメディアのプラットフォーマーが商業目的のために消費者のデータを利用することを望んでいません。
このようなブランド側の問題は、倫理的に利用するデータへと変革を起こす可能性を阻害しており、可能性を確実に高めるための新しいアプローチが必要です。ケイティ・ヒリヤー氏は次のようにコメントしています。「最初のステップは、データについて議論するということはそこにいる人々について語ることであると理解することです。これによって、データ保護の闘いに拍車をかけ、人々の意識を高めるほか、企業に対して製品に正しいプライバシーレイヤーを確実に構築させるようプレッシャーをかけることができます」。
同時に、データは収集して転売するものではなく、革新を推進するツールとして再評価するべきです。ラッシュのチーフ・デジタル・オフィサーであるジャック・コンスタンティンは、「組織は、保有するデータでどのように革新できるか考えることをやめてしまいました。むしろ、データを大量に収集することに躍起になっている一方で、ますます無益なものにしています。このような態度は軽蔑すべきです」と述べています。
データが問題となるのは倫理面だけではありません。増大するデータの保存に必要となる莫大なインフラが環境に与える影響を考えてみましょう。データセンターはデジタル時代の工場と呼ばれることもありますが、欧州委員会は欧州にあるデータセンターが2030年までに電力需要の3.2%を占めると予測しています。これは2018年と比べ18.5%の増加になります。
データの透明性が鍵となります。ブロックチェーンの分散型台帳技術には、大いなる見込みがあります。世界中のパートナーと安全なリアルタイムのコミュニケーションネットワークを構築して、サプライチェーンを支援し、これまでにないレベルの信頼を築けるからです。ラッシュはすでにサプライチェーンマッピングソフトウェアを使用して、ラッシュのグローバルサプライウェブを可視化しています。
ラッシュでは、サプライヤーと提携してフランキンセンスの調達における透明性の高いブロックチェーン対応型のサプライチェーンを実施しています。ソマリランドで採れるフランキンセンスのサプライチェーンの不透明性は悪名高く、ブロックチェーンを活用することで収穫者への公正でタイムリーな支払いと、原料のトレーサビリティを確保できます。
現代のインターネットは期待に添わないことが明らかになっています。考案者であるティム・バーナーズ=リー氏は1997年に「ウェブの力はその普遍性にある」と語りました。しかし、現実はまったく異なる展開になっています。今日の支配的なデジタル空間は決して普遍的ではありません。バーナーズ=リー氏の理想は、デジタルの排他性、オンラインでの多様性の表現やオンラインのアクセシビリティの欠如により崩れました。
この状況は、ウェブ全体で明らかになっています。本調査では、33%の消費者が他者と関わりやすくアクセスしやすいのは、現実世界よりデジタル空間であると考えています。一方でZ世代の54%は、特定のグループはデジタル空間では疎外され、無視されていると感じています。この考え方は、社会的に疎外されている人々ほど強くなっています。例えば、従来の性別二元制を認めていない消費者の81%が、デジタル空間は疎外されている人々をないがしろにしていると考えていますが、一般的な消費者でそう思うのは38%でした。
企業が受ける影響は甚大です。テクノロジーの民主化が意図した影響がくつがえされました。ラッシュのディレクター、アナベル・ベイカーは、次のように語っています。「企業は障壁を生じさせることなく、どこからでも人々がアクセスできることが理想的です。しかし多くのデジタルプラットフォームは、十分ではありません。依然として自ら利益を得ようとしていますが、それはブランドとお客様双方に損害を与えることになります」。
ミカ・ル・ジョン氏は、必要なことは大胆な変革ではなく、長期にわたり継続的に改善プロセスを追跡することだと語ります。「多様性とアクセシビリティがデジタルプラットフォームの設立、管理、成長におけるあらゆる要素の中心となるべきです。企業がその製品と後継品を作り続ける限り、多様な意見を確実に取り入れ、その要求に応えることが不可欠なのです」。
次世代のデジタル
デジタル環境がますます没入型かつ知性があり、高性能になっていく中で、社会は転換点に立っています。メタバースとAIは、社会を良いものに変えてくれる可能性があります。しかし、メタバースやAIが誕生したことで社会が考慮すべき倫理的な難問も大量に生じており、私たちがより包摂的な計画を立てない限り、メタバースとAIは不公平と分断を広げ続けることになります。
AIについて考えてみましょう。ChatGPT、Midjourney、Dall-E 2など、消費者向けのジェネラティブAIプラットフォームが次々に登場しているおかげで、テクノロジーに変革が起こりえることが予想されています。ジェネレーティブAIは依然として初期段階ですが、Fishbowlによれば、 27%の専門家が仕事関連の作業支援のためにすでに利用しています。またGartnerは、ジェネラティブAIは2025年までに生成される全てのデータの10%を占めると予測しています。
しかし現在では、このようなAIの出現が社会に急激に負の影響を及ぼし、現在の課題を常態化させる可能性があります。USC情報科学研究所(USC Information Sciences Institute)の研究チームが、2つのAIデータベースにあるデータの公平性を調査したところ、AIが「事実」として利用したデータの38.6%に偏りがあることが明らかになっています。
AI技術の影響を肯定しているケイティ・ヒリヤー氏は次のように説明しています。「データが正しくなければ、システム上のマイナスな問題を永続させる結果を招くことになります。しかし正しく活用すれば、未来のデジタル空間は多くの価値をもたらしてくれるかもしれません。より多くの人々をつなげ、コミュニティができる方法を提供すれば、大きな力となるでしょう」。
メタバースはそれを示す代表的な例です。メタバースを知っている消費者は39%に過ぎませんが、21%がメタバースは現実世界の経験を再定義できると期待しています。これは没入型の新しいデジタルフロンティアに関与している人々に強い信念があることを示唆しています。しかし、本調査では、41%はFacebookの親会社であるMeta社がメタバースそのものであると考えており、その可能性はすでに危険な状態にあります。
やがては有害だったと分かるかもしれない行動を、見境なく時期尚早に受け入れることから身を守るため、多くのテクノロジーが提示する倫理的な難問に対して、優れた判断力と実用的なアプローチを組み合わせて対応しなければなりません。「見せかけの価値と真の価値を区別でき、最先端の技術の真の影響力を理解できるよう、鑑識眼を鍛えなければなりません。中には聡明な人々もいるかもしれませんが、その多くは『ノー』と言うことを恐れているのです」とレイチェル・コルディカット氏は述べています。
デジタルの未来は暗いとする人々でも、希望をなくさずにすむ理由はいくつかあります。デジタルネイティブ世代は、協力的で分散型な積極的なデジタルアクティビズムを通じて、社会を変えるアプローチを取り入れています。これに伴い、テクノロジーがあらゆる問題を解決するという楽観的な考え方が広まっています。変革者たちはWeb3やイマーシブ・テクノロジー(没入型技術)の力を利用して、インターネットやその単一文化の均質性に立ち向かい、社会の新しいパラダイム確立を望めるネットワークをつくっています。
端的に言えば、Web3はデジタル空間でのガバナンス、価値創造、ステークホルダーの参画への新しいアプローチなのです。ブロックチェーン技術を活用するWeb3は、分散型で誰にでもオープンであることを目的としています。Web3は、人々がデジタル資産をはじめ、コミュニティ所有のデジタル空間とそのデータの構築者でありオーナーである、デジタルの未来を創出する機会を意味しています。
LiiV Centerのケイティ・ヒリヤー氏は、次のように語っています。「Web3は単にWeb2の次世代版ではありません。Web3は、Web2を完全に否定しているのです。素晴らしいことに、Web3の構築者がインターネットの当初の目標を実現しようと試みていることです」。
これは第一に、つながり、コミュニティ、好奇心を促すことを意味します。これらは消費者、特に若年層が切望しているプラス面です。本調査では、Z世代の60%、ミレニアム世代の58%が現実世界では見つけられなかったコミュニティをオンラインで見つけ、それぞれの56%と52%は、デジタル空間では、オンラインでは不可能な方法で自分のアイデンティティを表現できると考えています。
それだけではなく、Web3では、現状に対する根本的な変化も期待できます。ラッシュの共同創立者兼CEOであるマーク・コンスタンティンは「ビッグテックの力に対抗しようとすれば、時にいたずら心を持たなければいけないこともあります」と語ります。
Web3ではこのような迷惑行為を、成熟した代替ビジネスモデルとして実現させ、物事を進める根本的な手法とすることを可能としています。Web3は、分散型自律組織(Decentralized Autonomous Organization、以下DAO)という新しいビジネスモデルを可能にしました。DAOとは、例えば中央集権管理者の誰か一人に権限を割り当てるのではなくメンバー全員に割り当て、株式ではなくトークンを分配して管理・運営する組織です。DAO統計プラットフォーム「DeepDAO」の調査によれば、2023年1月現在のDAOトークンの時価総額は合計約210億ドルにのぼり、その著しい影響力が明らかになっています。
暗号通貨はその一例です。消費者の43%が暗号通貨と将来の成長に暗号通貨が及ぼす潜在的な影響力について知っていると回答しました。米国では、消費者の10%以上が暗号通貨について詳しい知識を持っています。一方でLanciumやHIVE Blockchainなどの企業は、テクノロジーに対する環境への懸念を解消し、一般の電力消費が減ると電力を購入し、ピーク時間には電力を遮断することで地域の送配電網に役立てています。
この可能性に多数が賛同していることは数字から分かります。Metaverse Postのデータから、2022年度のWeb3空間による資金調達額は、71億ドルにのぼったことが明らかになっています。コミュニティによる利用が可能であれば、このような資金は既存の富の格差をリセットし、経済面で公平な未来を創造できる資産形成の機会となります。「Web3には大きな可能性があります」とダニー・ギャラガー氏は語ります。「まだ解決すべき問題は数多くありますが、もし目的が達成されれば、そこはまるでデジタルの楽園のように感じられるでしょう。一般的なデジタルの住人が、読み書きそして所有できると考えるとまるで夢のようです」
しかしこの未来の実現までの道は、まだはるかに遠いのです。本調査ではイギリスの71%、日本の70%、米国の64%の消費者はそれぞれWeb3について聞いたことが全くないと回答しています。それでも、調査の回答者の51%は、ユーザーにオーナーシップ(所有権)をもたらす次世代インターネットが必要と考えており、認知が高まればWeb3は大いに歓迎されるはずです。
オンライン上のガバナンスの責任所在を考えると、IT企業(35%)、行政(34%)、社会(31%)と意見が分かれることから、産官学が協力してWeb3の可能性を最大限引き出し、Alternet(現在のインターネットの次世代案)を始動させることが現在の課題となっています。
ラッシュのチーフ・デジタル・オフィサーであるジャック・コンスタンティンは次のように述べています。「Web3の効果は、私たちの作り方次第です。この空間で企業は重要な役割を担うか、発展を傍観するかを選択できます。メディアと開発者のWeb3の捉え方は大きく食い違っており、解決する必要があります」。
の消費者が、オンラインプラットフォームやオンラインサイトのコミュニティのオーナーシップ(所有権)は自分にとって重要であると回答しています。
1980年代のウォール街文化を否定し、かつて希望と解放の象徴であったテクノロジー業界は、多くの例で悪辣な力であることが明らかになりました。特にAI、拡張現実(XR)、メタバース、バイオテクノロジー、量子コンピューティングが起爆となった、世界を変化させる技術革命が明らかになり、私たちの倫理基準を見直し、誠実性に関する規定と、総合的な倫理規定を新たなテクノロジーに取り込むことは、間違いなくこれまで以上に重要となっています。
ラッシュのチーフ・デジタル・オフィサーであるジャック・コンスタンティンは、「本調査で、消費者の62%がデジタル空間を確実に倫理的にできるかどうかは全ての企業次第だと考えており、ブランドが共に闘ってくれることを期待しています」と語っています。43%がデジタル・ウェルビーイング確保のためのガイダンスを積極的に求め、48%がデジタル体験を通じてユーザーの安全を保護する、グローバルな法律の重要性を考えています。イギリスではその割合は59%にのぼっています。
フューチャー・ラボラトリーの共同設立者であるマーティン・レイモンド氏は次のように語っています。「それに応じるため、世界を変えるようなデジタルフロンティアの新たなマニフェストが、初めから採択される必要があります。既存のデジタルプラットフォームは改良が必要だからです。企業は、公平性、包摂性、リプレゼンテーション、アクセシビリティ、変革をはじめ、個人や世界の向上を促すデジタル文化の構築を支援すべきです」。
ジェームズ・ブライドル氏は、この種のマニフェストはあらゆることに影響を与えると述べています。「デジタル空間での私たちのふるまい方、行動、自分自身や互いの守り方についての、教育、枠組み、理解が鍵となります。重要なことは、マニフェストはどこでも通用するということです。マニフェストを活用すれば、ユーザーがどのようなネットワークにいても主体性を確保でき、デジタル空間を活用するのに必要な技能や手段を身につけられます」。
このように考えないと、物事はすぐにディストピアになりかねません。メタバースについて考えてみましょう。Epic GamesのCEOであるティム・スウィーニー氏は、「メタバースは、他の追随を許さず普及し、強力になることでしょう。もし中央集権的な一社がメタバースを支配するようになれば、どんな政府より大きな権力を持ち、地球上の神となることでしょう」と語ります。この考えに消費者も同意しています。47%がメタバースの誠実性は、ビッグテックの非倫理的な行為に対し脆弱であると答えています。
このような脅威から保護され、技術革新が前向きに急激な進歩を遂げるために、私たちはソーシャル(SOCIAL)フレームワークマニフェストを策定しました。 デジタル空間、プラットフォーム、エンゲージメントのための6原則で構成されるこのマニフェストの目的は、テクノ・オプティミズム(技術楽観主義)の豊かな未来を可能とすることです。ここでは、6つの原則を考察し、先導するイノベーターを紹介します。
デジタルプラットフォーム、サービス、商品の設計以前に、環境への影響を考慮しなければなりません。デジタル空間がいかにポジティブな影響を与えるものであっても、ハードウェア、廃棄物、データ保管が環境に有害な影響を及ぼす場合、どんな体験もその効果は薄れます。これらを正しく行えば、テクノロジーは気候変動を悪化させるのではなく、それに対抗する手段となります。
未来志向のブランドは方法を例示しています。例えば、Snøhetta設計のデータセンターは、学校や病院などを含め、もっとも暖房を必要とする周辺施設に、データセンターから出る廃熱を再利用しています。一方、デンマーク企業のPrimeの新データセンターは、環境への影響をネットポジティブにすることを実現しています。
他の地域でもラッシュは、自社のエシカルなハードウェアポリシーに基づき投資を行っています。可能な限りコモディティハードウェアを使用していない素材を使用し、コモディティハードウェアを使う場合は、高出力でありながら効率的でエネルギー消費が低いものとし、再生可能エネルギーで電力を供給しています。現在、ラッシュの研究開発は、イギリスのドーセット州のラッシュ本社に隣接するプール港の電力を利用し、太陽エネルギーや潮力エネルギーで稼働するデータサーバーで行われています。さらに、ラッシュは最高クラスのエシカルなタブレット装置の開発に関心を向けています。まずはラッシュのストアへの設置を目指し、ゆくゆくは消費者向けに展開を考えています。
デジタル環境や広範なビジネス界では、競争を協力に置き換える必要があり、集団主義という新しい傾向によって相手を出し抜こうとする時代が終わろうとしています。情報の流れが透明であれば、バリューチェーン内の誰にとってもメリットになる、ソリューションやイノベーションが実現できます。
ラッシュの共同創立者兼CEOであるマーク・コンスタンティンは次のように語っています。「現在、企業には協調性や善意が欠けています。多くの企業は、商標や知的財産に対し、海賊版の教科書をそのまま真似たようなリスクのある行為を働いていますが、一社だけでは太刀打ちできない諸問題を解決できるよう、この状況を変える必要があります」。ラッシュはオープンソースソリューションをすでに活用し、Saleor社と連携してウェブサイトとアプリをリニューアルしました。これは、高度なライブラリから機械語に至るまで、世界中のオープンソースデベロッパーからの、無数の貢献によって実現しました。
将来、プラットフォームはデータを統合し、アカウンタビリティを確保しつつ、あらゆる利害関係者がパフォーマンスを追跡、比較できるようにします。スイス連邦工科大学チューリッヒ校のクラウザー研究所が設立した新たなプラットフォームRestorは、世界中の基礎的な自然環境保護プロジェクトから、環境への影響を図表化し、関係者をつなぎ、協力することで、新しい道を切り開いています。
現在、大半のデジタル空間の消費者は自分のデータやコミュニティを管理していません。消費者重視のモデルが電子商取引を超えて展開するにつれ、分散型データのオーナーシップにより新しい価値の交換が生まれ、自立したミクロ経済が育成されます。自立したミクロ経済では、Web3テクノロジーによりコミュニティがプラットフォームを正しく管理できるため、消費者は商品の入手方法を自分で管理できるようになります。
DAOの出現と同様に、コミュニティのオーナーシップを念頭に置いた、ブランドと消費者の関係を変える無数のプラットフォームが現れています。トークンを付与するエコシステムを使ったソーシャルメディアのVoiceは、ブロックチェーンを利用するプラットフォームで、優良なコンテンツを投稿するユーザーに報酬が与えられます。 同様に、Twetchは広告がないソーシャルメディアで、ユーザーは自身のデータやコンテンツを所有するだけでなく、「いいね!」やフォロワーを獲得すると報酬が得られます。 これは米国で切実に感じられる変化です。米国では41%が、消費者データに対し金銭的な価値を得られることに関心があると回答しています。つまり、データを消費者自身で管理でき、ブランドとシェアすることで報酬を得られるということです。
現実の世界とは違い、デジタル空間は急速に、私たちがまだ理解していないかもしれない方法で進化していることを認識し、デジタルイノベーションへの段階的なアプローチも活用していかなければいけません。段階的な考え方を盛り込むと、たとえば、OpenAIのような企業が活用するプラットフォームは継続的に微調整することで、必要な変更を実施できます。
ラッシュのヘッドレスコマースアプローチもその一例です。アプリケーションのフロントエンドとバックエンドを分けることで、私たちは表現の自由を得られ、望む機能を望む方法で急速に開発できるようになります。世界を変えるような段階的なイノベーションは、新しいものである必要はありません。約200万のウェブサイトに使用されている、定評ある WordPress plug-in の作者であるダニー・ファン・コーテン氏は、ほんの1キロバイトのデータをそのプラグインから削除すれば、二酸化炭素排出量を1ヶ月当たり約2,950kg削減できることに気づきました。
デジタル空間は誰でもアクセスができ包摂的であり、インターネットの本来の理想像を実現すべきです。何も排除せず、あらゆる人を受け入れる包括性の向上は、個人の仕事や価値はその人物が誰であるかにより判断され、それ以外では判断されないというデジタル環境や仮想環境の本来のメリットを表しています。
包摂性を向上させることで、企業は仮想世界で多様な表現ができるようになり、様々なニーズや欲求、願望のある人々がデジタル空間をシームレスに移動できるようにサポートできます。
Idoruは、ユーザーがリアルで自分そっくりなアバターを作成できるアプリで、ゲームやデジタル世界ではほとんど見られないレベルの表現が可能です。一方でTapTapSeeは、視覚障害者専用のカメラアプリです。携帯のカメラを使って二次元、三次元のオブジェクトを解析し、音声で表現します。
最終的に、現実世界(IRL)と仮想空間(URL)の区別がつかなくなるにつれて、デジタルな関わりが持つ体験性を活用して、陽気で楽しく、人生を肯定する瞬間をもたらすために役立てられる必要があります。そのようにすれば、ポジティブな考え方へと変わり、現実世界で見られるような行動が促され、デジタルカルチャーにより確実にウェルビーイングは高まります。
ラッシュのチーフ・デジタル・オフィサーであるジャック・コンスタンティンは次のように語っています。「デジタル空間は、企業に重力と有形財産を無視させながら、ウェルビーイングを高め、喜びを感じる人生肯定体験を創出する機会を与えます」 。
研究では、畏敬の念を感じる体験を定期的に実施すると心身のウェルビーイングが向上し、思いやりをはじめ寛容さや批判的思考力が高まり、慢性的な炎症が抑えられ、自己超越力が覚醒することさえあると示唆されています。課題は、企業が没入型のテクノロジーを利用し、デジタル空間で驚きの瞬間を与えられるかということです。(出典:『Awe』著者、アメリカ心理学会フェロー、ダッチャー・ケルトナー氏)
ラッシュの共同創立者兼CEOであるマーク・コンスタンティンは次のように語っています。「これは、デジタル空間と現実空間の均衡が上手くとれているということです。ロックダウンを乗り越えて、人々は現実世界の体験や自然を求め、そのような行動がウェルビーイングに及ぼすプラスの影響を感じることを望んでいます。デジタルイマージョンには独自の効果があり、適切に融合させると両世界が互いに広げられるのです」。
ソーシャルフレームワークで概説した原則を活用することで、ブランドと企業は、すでに強い影響力を社会に及ぼしている「大変革を起こすテクノロジーの進化」がもたらす可能性を最大限に活用できます。ここでは、その機会がどのように展開するか概説し、影響力のある新しいサービスやソリューションを解き明かし、未来の倫理的なデジタルエンゲージメントの姿を明らかにします。
従来のソーシャルメディアに飽きた消費者は、新しいプラットフォームに出会います。このようなプラットフォームは機能に、人類共通の善という価値を組み入れています。若年のテクノロジー愛好者は2030年までに、デジタルプラットフォームに対して、これまで以上にコミュニティを重視する姿勢で、利他的に取り組んでいくでしょう。
多くの主要なデジタル空間は反SNSの特質を持っていることに対応して、ポジティブで目的の達成に役立つソーシャルメディアプラットフォームが次々に現れています。このような新しい空間では、礼儀正しさと社会的な善の中核となる価値を重視して、ソーシャルメディアプロジェクトの回復が望まれています。このような高い目的を達成するために、新しいプラットフォームは努力目標をプラットフォームの機能に盛り込み、クリック、スワイプ、アップロードするたびに人々とのつながり、協力、コミュニティが促進されます。
万人受けするアプローチを捨てた、今日の明確な目的あるプラットフォームは、それぞれがユーザーが身を寄せられる独自のニッチさを備えています。例えば、コミュニティ重視のソーシャルメディアプラットフォームであるSomewhere Goodは、有色人種やクィアコミュニティ向けの安全な空間として創出され、オンラインでのつながりや安らぎを優先させています。このアプリを開き一息つくよう促されたユーザーには、プロフィール、フィード、いいね!、フォロワーがなく、アルゴリズムもありません。
別の例では、Spoutibleがあります。Spoutibleは、ハラスメントを恐れることなくユーザーが「吐き出す」ことができるプラットフォームです。クリストファー・ブージー氏が設立したSpoutibleは、ユーザーの安全性を守るために、役立たなかったり、退屈だったりする必要はないと主張しています。Spoutibleでは、ニュースやジャーナリストとの関わりや多様性が期待されており、利益よりユーザーを優先し、ヘイトや不正行為への警戒を怠りません。
ラッシュのアナベル・ベイカーは次のように語っています。「新しいプラットフォームは、社会が正しい均衡を見いだせるように手助けしています。現在、多くのデジタル空間は人々のメンタルヘルスに有害な影響を及ぼしており、新しい参加者が優先するつながりや個別のメリットを提供するデジタル空間の可能性を阻害しています」。
今後10年は、ソーシャルメディア環境を独占するかわりに、消費者がその時の気分で選べる特有のプラットフォームネットワークで構成される、新しいニッチな選択肢が急増し続ける可能性があります。そのような消費者に共通することは、目的です。
LiiV Centerのチーフ・デジタル人類学者であるケイティ・ヒリヤー氏は次のようにコメントしています。「オンラインプラットフォーム上でコミュニティを形成する場合、作成者にはある価値観を掲げる責任が最初からあります。自分が信じる価値で設計していなければ、そこから問題が生じるのです。ソーシャルメディアに新たな分断が生じている理由はこれです。人々は資本主義を認めないシステムを作り上げ、コミュニティに利他的な信念を、そして社会に民主主義を貫き通そうとしているのです」。
すでに、この変化が始まっていることが分かります。例えば、FacebookやMessengerから離れたユーザーがそのような選択をした理由は、プラットフォーム側によるユーザーのデータの使い方が気に入らなかったから(15%)に加え、その企業が擁護している物事が嫌だから(18%)です。日本では、プラットフォームの価値が好みでないとする回答が目立って高かったのは、TikTok(23%)とInstagram(20%)でした。
アルゴリズム以上に、他のプラットフォームは良いことを行うことでユーザーが報酬を得られます。スー・フェネシー氏が創立したWeAre8は、ヘイトに対しゼロ容認のデジタルプラットフォームです。プロフィール構築、いいね!、フォローを通じたエンゲージメントを促進しますが、世界に影響を及ぼすことに焦点を合わせたコンテンツをユーザーがアップロードするよう促しています。WeAre8のユーザーは、そのプラットフォームで広告を見ることで報酬を得て、報酬から慈善団体に寄付する金額を選べます。
ラッシュの共同創立者兼CEOであるマーク・コンスタンティンは、「目的なしに分断させるのは無駄なことです。プラットフォームの中心に目的を組み入れることで、プロセスは簡単になり、アルゴリズムやエンゲージメントメトリクスは積極的な行動を確実に後押しします」と語ります。
将来的には、Web3の原則を活用しコミュニティに完全なオーナーシップと支配を提供することで、ソーシャルメディアプラットフォームの次の波がさらに限界を超えていくことが予想されます。会員所有のコミュニティで構成される、広告がない分散型ソーシャルメディアプラットフォームである、Nicheの登場を目の当たりにしています。また、Friends With Benefits(FWB)は反体制的な価値を共有するWeb3アーティスト、経営者、思想家のコミュニティによって運営されています。
消費者は、既存のプラットフォーム、アルゴリズム、プロセスの監視が行き届いていない状態に不信の目を向けています。世界では、34%が、個人ではなく広告主のメリットとなるコンテンツのみを提供するソーシャルメディアプラットフォームの使用をやめようと考えており、29%が、ソーシャルメディアプラットフォームのアルゴリズムによってコンテンツが偏向されている場合、使用をやめようと考えています。イギリス(53%)と米国(51%)の大半が、有害なコンテンツまたは情報を操作するコンテンツを容認するプラットフォームの利用をやめると答えています。
Future Collectivのダニー・ギャラガー氏は、「新しいプラットフォームでは、社会運動や市民運動のように、社会の進歩の恩恵として、デジタル空間の可能性を確実に発揮できます」と語っています。「非倫理的なブランドと腐敗した政府は、無秩序と不調和を好みます。なぜなら、特定の利益団体の利益となるように、クリック、コンバージョン、方針変更を促せるからです。このような状況では、若年者は官民部門の危険をはらむ情報操作にさらされたままになります。若年者はそのような危険から守られなければならないのです」。
たとえば、Mycoのように、ユーザーの誰もがデジタルソーシャルクラブを設立できるようにした新しいソーシャルメディアも登場しており、次世代のデジタル建築家は従来のプレイヤーと競い合いながら自らの仮想空間を建設し、その社会的な健全さを優先していくでしょう。
ブランドには、消費者がこのようなプラットフォームを構築する技術を習得できるよう支援し、これによりデジタル格差を解消できる大きな可能性があります。デジタル格差は、構造的人種差別、階級差別、同性愛嫌悪、トランスジェンダー嫌悪、性差別、年齢差別による貧富の格差の兆しや格差の広がりを示しています。デジタル環境では、利用や開発をする時点で積極的に問題を提起しない限り、社会全体で見られるような不公平を繰り返したり、助長したりする危険性があります。
メタバースやXRの進化、そして接続のしやすさが向上したことに伴い、今後10年で、未来のショッピング・エクスペリエンスは没入型でインタラクティブ、コネクテッドなオープンソースのショップの、ソーシャルネットワークになります。メタストアへようこそ。
生活がますますフィジタル(フィジカル+デジタル)となるにつれ、経験とサービス主導のオフラインショッピングへのアプローチは、一巡して、機能拡張されたオンラインショッピングに逆戻りします。没入型のデジタル空間は物理的なショップを、物理的なショップはデジタル空間を模倣します。顧客は、XRの中で一連のオープンソースパラメータを介して、体験を独自のニーズにカスタマイズし、現実世界でもデジタル空間でも、自分のアバターを使って、ショップを訪れ買い物ができます。
これは思ったよりも近い将来に実現されるでしょう。テクノロジー・リサーチとコンサルティング専門企業であるGartnerは、2026年までに25%の人々が、仕事、買い物、学校、交流活動、エンターテインメントに1日1時間以上メタバースで過ごすようになると予測しています。企業はすでに、この未来が開かれるであろうプラットフォームで実験しています。
ソウル市は、独自のメタバース・プラットフォームを立ち上げた初の都市で、三次元の仮想空間が行政需要と文化需要に対応する次世代の公共サービスを提供しています。このメタバースには、フィンテックインキュベーター、仮想市長室、メタバース120センターが含まれます。メタバース120センターでは、アバターが市民の苦情提出や問題解決を支援します。
韓国で事業展開しているラッシュは、新型コロナウイルス感染症拡大時にこの急進的なイマージョン技術を利用し、メタバース・プラットフォームであるGatherでクリスマスイベント「Lush Christmas Showcase」を立ち上げました。Gatherは、カスタマイズできる仮想空間と双方向性の機能を提供しています。ラッシュは、ラッシュランド、ウィンターランド、スノーフェアリーランドという3つの世界を創出しました。各ランドでユーザーはブランドのストーリー、価値、キャンペーン、様々な商品について学べます。
ラッシュが示すように、現実世界、デジタル世界、仮想世界を融合させる機会によって、ブランドは製品やサービスだけでなく、誰もが利用できる世界を提供できるようになります。ここから、まさに没入型で協力的な魅力あふれる商取引の新時代が始まります。そこでは市民はインターネットにつながっているのではなく、インターネット「内」に存在します。Z世代やミレニアム世代にとって、非常に魅力的な未来です。48%が現実とオンラインの小売りの境界があいまいになり、便利で柔軟なショッピングが体験できることに、魅力を感じています。
それでもWeb2が示したように、このような期待は保証されていません。ラッシュのディレクターであるアナベル・ベイカーは、「ビッグテックがメタバースで土地を収奪していることは周知のことです。これまで資産の所有や支配を続け、それが可能だからとデジタル空間や資産を買い占めている人々と、仮想空間を公平にするために取り組むWeb3信奉者の間には対立があります」と語ります。
ライアン・ギル氏はそんな信奉者の1人です。Web3や幅広いテクノロジー業界のリーダーであるギル氏は、メタバースは全ての人が当然利用できる公益施設であって、誰もが頼れるものととらえており、公平な未来の実現に向けてOpen Meta Association(オープンなメタバース連合)を設立しました。これは、デジタルエコシステムにおける従来のビッグテックやブランドのゲートキーパーを同じ目的を持つ人々のコミュニティに換えることでメタバースの成長や導入を加速させる試みです。
イギリスと米国ではこのような行動の機運が高まっています。それぞれ52%と49%の消費者が、メタバースの誠実性はビッグテックの非倫理的な行為に対し脆弱であると答えています。それに対し、日本でそう考えているのは18%に過ぎませんでした。また、世界中の消費者の45%は、ビッグテックが同意なしに個人やブランドのデータを売り広告収入とすることで、メタバースを支配すると考えています。
お客様で構成されるラッシュのコミュニティに価値を付加することが、鍵となります。ラッシュのチーフ・デジタル・オフィサーであるジャック・コンスタンティンは「メタバースは、広告を出すためのチャネル以上の価値があります。メタバースは、価値を付加するための空間です。小売業にとっては、実験を促したり、コミュニティが互いに関わりあう場を提供したりする、カスタマイズされたレコメンデーションサービス提供を意味するかもしれません」とコメントしています。
ラッシュは、このような価値をお客様にもたらすため、ユーザー主導のDAOを介して管理されるメタバースである、ディセントラランドの土地を購入しました。お客様は没入型のポップアップ、アクティベーション、クエストを体験でき、ディセントラランドのアバター用に専用のデジタルウエアラブルデバイスを入手できます。
ますます多くのインフラがつながるにつれ、現実世界を模倣する仮想空間でも活発に実験がなされ、企業が意思決定する前にその決定による影響を分析できるようになることが期待されます。ドイツ連邦地図測地庁(BKG)はその一例です。BKGはドイツのデジタルツインを開発し、これにより社会の課題へ対処する未来のシナリオをシミュレートでき、意思決定を向上させることができます。テクノロジー企業のNVIDIA は、気候変動のシミュレーション、予測、最終的には抑制を目指す、リアルタイムのデジタル・ツイン・プラットフォームであるOmniverse(オムニバース)を構築しています。
ブランドへの影響は甚大です。企業は、現実的に事業参画する前にお客様からのフィードバックを検討し、デジタルツインのショップで店舗での取り組みを仮想的にシミュレーションできるのです。また、企業全体のエコシステムに及ぼす影響について、リアルタイムに把握できるということです。製造と物流をライブで微調整することで、サプライチェーンを最適化でき、リジェネレーション(再生)を実現させます。
将来的には形勢逆転して、ブランドは、デジタル世界にいる自社から情報を得て模倣した現実世界の空間「フィジカルツイン」を作り出すようになるかもしれません。
ロンドンの百貨店セルフリッジズはファッションブランドのパコ・ラバンヌやヴァザルリ財団美術館とともに、フィジタルな未来とは何かを例示し、ファッション、アート、小売り、劇場、非代替性トークン(NFT)を橋渡しする、対面店舗体験ができるユニバース(Universe)を設立しました。セルフリッジズのコーナーショップ(Corner Shop)のコンセプトの一環として、このプロジェクトでは店内で美術展を開催しています。ハンガリー系フランス人の芸術家ヴィクトル・ヴァザルリの幾何学模様の作品を展示し、NFTによるパコ・ラバンヌの12着の衣装が販売されています。
デジタルパッケージ「Lush Lens」ソリューションも、現実空間にデジタルレイヤーが及ぼす影響を協調しています。オープンソースツールにより、製品詳細、原材料、価格を明確に表示し、ラッシュの「ネイキッド(非包装)」製品ライン、在庫品、アパレルを提供することでパッケージは不要となりました。買い物客がラッシュ製品の上にスマートフォンのカメラをかざすとアプリ内の没入型動画が表示されます。「Lush Lens」は、ラッシュの社内技術R&Dチームが設計し、機械学習や製品認識機能によって作動します。包装業に革命を起こす可能性を秘めています。またこのアプリは、国境の無いコミュニケーションソリューションを提供するため、お客様は母語で買い物を楽しめます。「Lush Lens」機能はQuikklyと共同開発されており、円形または六角形の着色パターンで解析する、QRコードにかわる視覚的に魅力的なシステムとなっています。
最終的には、メタストアは選択の問題です。IdoruのCEO、ミカ・ル・ジョン氏は、次のように語っています。「私たちは、仮想と現実両方の空間を必要としています。両空間とも、健全な方法で、私たちの生活の一瞬一瞬でコミュニティの概念を容易に拡大縮小できるものです。小さなコミュニティで親友と過ごしたい、または没入型体験を楽しみたい、または創造性をつなげたい、と日によって希望は変わるのです」
2030年、ブランドはWeb3の力を活用してお客様との新たな関わりを築き、共創、イノベーション、消費者への直接販売の新しい時代を創出することになるでしょう。
ブランドと消費者間の従来の境界はすでに曖昧になっています。カスタマーサービスはますますスピードが増し、反応性が高くカスタマイズされたものへと進化し、企業はお客様との対話を増やし、お客様に寄り添い、お客様から学ぼうと試みています。これに対応し、業界は取引型から互恵型へと変化しています。
Ogilvy社の調査はこの変化を示しています。「例えば、Z世代評議会に3ヶ月参加するなど、週1時間、好みのブランドのワーキンググループに参加したいか」という質問に対し、Z世代の86%が「喜んで参加する」と回答しています。
お客様の信頼できる自己表現に基づき構築されたショッピングプラットフォームBasic.Spaceは、会員制オンラインマーケットプレイスとして運営されています。ユーザーはプラットフォームのデジタル店頭で、クリエイターの写真やライブ・ストリーミングで紹介された商品を購入できます。販売者、ブランド、お客様間での直接対話を促す、会員のみがアクセスできるプライベートなソーシャルメディアアカウントです。
ラッシュのアナベル・ベイカーは、次のようにコメントしています。「多くの消費者は、エンゲージメントを敬遠するのではなく、求めています。共創や消費者への直接販売の時代に向けた準備をするということです。ブランドはお客様と継続的にフィードバックループをつくり、お客様がイノベーションのプロセスへ参加して、幅広く親交を深められるように促します」。
ラッシュのアプリは「Lush Bathe」機能で親交を深めることで引き出せるエンゲージメントの例を示しています。近い将来、アプリをヘルスデータに接続すると、ユーザーは、睡眠、心拍数など、入浴がもたらす物理的メリットについて新しい知識を得ることができ、ウェルビーイングを最大限に高められるようになります。
没入型の仮想空間とはフィードバックへ応答するための理想的な機会であり、お客様は一定の範囲内でブランド環境を試し共創できるのです。 SignalFireによれば、このようなコミュニティからのインプットにより仮想世界はデジタル同質性から保護され、クラウドソースベースの包摂性を促進し、クリエイターを名乗る世界中の5,000万人以上の才能を活用できます。
デジタルファーストのオートクチュール店Finesseは、データ、AI 、コミュニティからのフィードバックを利用してトレンドを予測し、ユーザーが投票した仮想上のプロトタイプデザインを制作しています。近頃450万ドルを資金調達したFinesseは、お客様を対等者と見なしたアプローチを展開しています。クラウドソースベースのアプローチを導入し、新しいブランド経済を創出する、デジ・フィジカルアパレルマーケットプレイスのMetaFactoryも一例です。MetaFactoryでは、デザイナーとそのコミュニティは報酬を共有し、ブランドを共同管理します。MetaFactoryのコミュニティはプラットフォーム独自の通貨を使用して製品デザインを提案し、投票できます。
アナログ世界でも同様の取り組みが実施されており、プラスの影響力が示されています。米国のロードアイランド・スクール・オブ・デザイン(RISD)は先頃、デザイナー、学生、卒業生、アーティスト、学者を交えたリブランディング共創プロセスに対し、デザインスタジオのGretelと、黒人をはじめ、有色先住民の若者や過小評価されている声に専念する調査機関のON ROADからの協力を得ました。このような、コミュニティ主導の包摂的なアプローチは、組織による包摂性への責任感を反映させることを目的としています。
ラッシュの社内では多くのネットワークが存在し、過小評価されているコミュニティのスタッフが事業全体でつながり、協力できる体制を作っています。このようなネットワークは、さまざまなコミュニティが人材開発訓練、商品開発、ラッシュによる従業員支援に貢献できるようサポートします。製造プロセスへのお客様の参加も促進しており、店内で開催するLush Partyでお客様に合わせた体験と時間を提供したり、各地で製造体験を開催し、お客様と一緒にバスボムを作るイベントを展開しています。こういったイベントを通じて、製造プロセスを体験型のタッチポイントへと変化させています。2030年までに、ブランドはサプライチェーンとイノベーションハブも体験できるようにします。お客様はバリューチェーン全体の仮想レプリカを歩き回り、その独創性を体験できます。
今後はWeb3本来の分散性により、カスタマーコミュニティのプライバシーを守りながら、このようなサービスを安全に提供できるようになります。Collab.landは、暗号通貨を使って、コミュニケーションツールのDiscordやTelegramの管理方法を示すシステムで、一定数のトークン保有者だけがアクセス許可されます。モデレーターは、チャネルゲストのリストを独占的に保つための用心棒として働くボットを追加できます。
のZ世代がZ世代評議会に3ヶ月参加するなど、週1時間、好みのブランドのワーキンググループに参加したいかという質問に対し「喜んで参加する」と回答しています。
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10年後には、新しいデータコマース市場でコミュニティ志向のふるまいにインセンティブを与えるためにブランドが活用する個人データを消費者が管理し、仲介し、個人データから利益を得られるようになるでしょう。
没入型のデジタル環境への移行が拡大すると、新しいデータコマース市場が出現します。特にマーケティング、コミュニケーション、広告の各分野では、ブロックチェーン技術によりデータ保護と透明性が確保され、メタバース内のブラウザーやインデックス、仮想目的地の複雑なネットワークから、新たなデータ収集方法がもたらされます。
ラッシュのデータの取り扱いに関するポリシーは先駆的な役割を果たしており、ラッシュの全ての従業員データと顧客データの安全や透明性を確保します。ラッシュのチーフ・デジタル・オフィサーであるジャック・コンスタンティンは次のようにコメントしています。「プライバシーと透明性はデータの可能性を引き出す際に不可欠な要素です。しかし大半の企業は複雑に扱い、何が収集されているのか理解できないようにしています。しかも故意にそうしているのです。Web3とブロックチェーンはプライバシーと透明性のバランスをリセットできると期待されています。人々は個人データの共有から価値を導き出せるようになります」
今後は、真価の提供が鍵となります。また、経済的なインセンティブは前進するための1つの方法です。本調査では、米国の消費者の41%が自身の個人情報のブランドへの共有を管理でき、共有することで報酬を得られるという未来を確信していると回答しています。この割合は、Z世代とミレニアム世代では、それぞれ47%、48%にのぼっています。
ダニー・ギャラガー氏は「デジタル消費者は今では、ユーザーは製品であるがその逆ではないという事実に気づいていますが、1%の富裕者の利益のために個人情報が悪用されているという事実は熱心に支持してはいません」と語っています。
CoverUSのブロックチェーンを用いるデータマーケットプレイスでは、消費者が電子健康記録(EHR)の情報をデジタルウォレットに入力すると、生体認証による収益源を確保できるようになっています。CoverUSは、固定価格の暗号通貨「CoverCoin」で収集データを購入しています。同社は、将来ユーザーがジム会員などのサービスに報酬を使用できるようになることを期待しています。
ケイティ・ヒリヤー氏は次のように語っています。「データは社会的な通貨になる必要があります。これは次の段階として自然なのです。感情面で見るとこの未来を理解できます。自分が信じていることに向かって事業を進めている企業に、自分のデータを共有することを選べ、その結果としてその目的をさらに進めるために、自分の行動が変わる場面を想像してみてください」
ブランドの中には、このような未来を構築するために、Web3のもう1つの話題であるNFTを活用しているところもあります。日本のラッシュでは、倫理的なブロックチェーンプラットフォームであるXooaを使い、限定製品のリリースに合わせて、専用NFTを製造しました。今後、現実世界の購買とデジタルコレクティブル機能間の関係をさらに探究し、拡大する予定です。
IKEAのリサーチラボ「Space10」は、物理的な家具を進化中のNFTツリーに関連づけるコンセプトを開発しました。このツリーは、人々が家財を保管し、修理し、リサイクルすることを促し、家財を大切にする行動を通じて「成長」するものです。このコンセプトは、金銭的なインセンティブから離れ、物事を大切にする行動を促します。デジタルのオブジェクトが現実の世界での持続可能な行動を視覚化し、報酬を与え、新たなデジタルの自己表現という機会を生み出すものです。
同様に、ラグジュアリービューティーブランドであるゲランは、現実の行動を通じてデジタルコミュニティとサステナビリティを統合することを目指し、Reaverseを構築しました。ゲランは、サステナビリティへの取り組みをWeb3に融合させ、フランスのVallée de la Millière自然保護地域での再自然化プロジェクトのために、1,828NFTの蜂を販売しました。
2030年までに、消費者は、自らの行動やブランドの行動が環境へ及ぼすリアルタイムな影響を評価できるようになるほか、持続可能な結論をもたらす行動を形成するための次世代のインセンティブを得られるようになります。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の革新的なSnapshot ITツールは、こういった機能をすでに提供しています。COP26では複雑な交渉のさなか、さまざまな関係者の立場に関わる、最新の情報を収集・処理して、進捗状況がリアルタイムでどのように追跡されるかを示しました。
私たちの生活がデジタルにますます依存するようになる中、ブランドは、特定ユーザー向け製品からレスポンシブ・エンバイロメント(応答できる環境)に至るまで、個人のウェルビーイングを向上させ、回復力のある生活を促すカスタマイズされたソリューションを開発しています。
IDC/Seagateは、世界中の平均的なネット利用者は2025年までに、1人当たり1日に約4,800回、約18秒に1回インターネット接続デバイスとやり取りするようになり、2020年の601回から増加していると報告しています。このような大量のデータから、ハイパー・パーソナライズされた、つまり対象ユーザーの興味や関心、行動データを元に最適化した情報を提供する、まったく新しい体験が実現します。この実現により、消費者の健康やウェルビーイングに、シームレスにメリットがもたらされるようになります。
LiiV Centerのケイティ・ヒリヤー氏は次のように語っています。「新しい体験や新しいつながりのいずれであっても、自分のデータをハイパー・パーソナライズされたサービスと交換する選択肢が人々に与えられることで、エンゲージメントの限界を広げる新しいイノベーションが引き起こされます」。
ホスピタリティ分野ではジュネーブのホテル、マンダリンオリエンタルがスイスの民間睡眠改善クリニックのCENAS と提携し、睡眠障害の診断のために、宿泊客に1泊分の睡眠ポリグラフ試験を提供しています。クリニックの専門医による徹底的な分析後、宿泊客はホテルのプログラム以外に、深い眠りにつけるようにアドバイスを受けます。
スマートテクノロジーでは、同様のソリューションを家庭向けに導入できます。ウェルネス企業のCareOSが開発したスマートバスルームミラーは、その一例です。これは、家族全体のウェルビーイングと長期にわたる健康を守れることが期待できる製品です。同社のPoseidonミラーは、総合的なウェルビーイングのためのパーソナルケア装置として機能し、子どもがいる家庭や特定のケア体制が必要な家族がいる家庭など、個人のニーズに応じてカスタマイズできます、
ラッシュのアプリ「Lush Bathe」の機能もハイパー・パーソナライズへの道を開いています。多くのウェルビーイング専門家、医師、サウンドヒーラー、メンター、ミュージシャン、バンド、DJと協力し、ラッシュは変革を起こす体験を次々と展開しています。このアプリは、入浴の効果を追求し最大化できるように設計され、没入型の視聴覚体験を活用しています。自社設計の機能によりユーザーのヘルスデータに接続でき、入浴の実際の物理的なメリットを理解し特定できます。
ラッシュは2023年後半にデジタルバスボム『バスボット』の提供を開始する予定です。「Lush Bathe」のペア機能として使える『バスボット』は、従来のバスタブでの感覚を変え、独自の体験を創出するスピーカーです。これはラッシュの象徴であるバスボムと同じデザインで、「Lush Bathe」と接続すると、独自のドーム型スピーカーから180度サウンドでコンテンツを再生できます。多方向にさまざまな色の照明が照射され、ユーザーにカスタマイズされた入浴体験をお届けします。
この種の体験に対する消費者の欲望は高まっています。本調査では、世界中の消費者の36%が、ウェルビーイングを実現するために個人のニーズを満たすハイパーパーソナライズされた製品とサービスを求めています。この割合は、米国では40%にのぼっています。
ラッシュのチーフ・デジタル・オフィサーであるジャック・コンスタンティンは次のように語っています。「2030年までに、コネクティビティが商品を没入型の体験に進化させることでしょう。製品を購入することで、カスタマイズされた入浴体験が実現できます。例えば、ラッシュの「Bath Bot」のように、製品とペアになったアプリがアドバイスや専門知識を提供したり、スマート照明が自動的に調整されてリラックス感を高めたりしてくれます」。
シームレスに回復できる機能を実現するために、完全レスポンシブな部屋環境も登場しています。MITメディアラボのレスポンシブ・エンバイロメント・グループによるプロジェクト、Mediated Atmosphereなどのコンセプトは、個人レベルで環境を改善させることで、ウェルビーイングと生産性の両方を向上させます。Mediated Atmosphereは、心拍数と顔の表情を追跡する、バイオシグナルセンサーを搭載したモジュラー型リアルタイム制御インフラを使用しています。制御可能な照明、プロジェクション、サウンドを活用して没入型の環境を創出し、ユーザーが快適に作業できるようにします。ユーザーの活動や生理機能に応じて自動調整されるというコンセプトです。
店舗におけるこのようなコンセプトの影響力は予想できる一方、MITの技術者がデータ追跡と収集というプライバシーの懸念を払拭しようと支援してくれているのは前途有望なことです。MITのButlrシステムは、人体の動きや姿勢を追跡する際に、パッシブ赤外線センサーを使い体温のみを検知します。このセンサーでは人物特定はできません。人物のいる場所と向かっていく場所の特定に制限され、センサーの検知範囲から人物が離れたとたんに追跡をやめます。
2025年までに、1人当たり1日に約4,800回、約18秒に1回インターネット接続デバイスとやり取りするようになると報告しています。
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既存のデジタルエンゲージメントには倫理感や透明性から目的や支配に至るまで、あらゆることが不足しています。忘れてはいけないことは、このようなデジタルプラットフォームの多くは、社会を念頭に置いて設計されたわけではないということです。
LiiV Centerのチーフ・デジタル人類学者であるケイティ・ヒリヤー氏は次のようにコメントしています。「もし社会科学者が設計を手助けしていれば、デジタルプラットフォームはかなり異なった場所になっていたかもしれません。ビッグテックが仕組みを整備する決まり文句は、多くの人々が支持していない価値に基づいています。このような決まり文句が長期にわたり残ってしまうのは、自分のデータの使われ方や、エンゲージメントが収益化されていることを多くの人が知らないために過ぎません」。
没入型で加速した変革を起こすデジタル体験が期待される、新たな技術革新の先端にある今日の社会には、デジタル空間の管理規則は広く採用する前にその価値と必ず一致させるという機会がもたらされています。さらに重要なのは、全ての人にそのような未来を構築する役割があるということです。本調査によると、消費者の62%は、全ての人が安全で包摂的なデジタル世界に貢献できることを支持しています。
著述家であるジェームズ・ブライドル氏にとって、目標達成の成果は変革の証です。「倫理的なデジタル空間の創出には、膨大な量の思考、人々の活動、志向性、透明性が必要です。自分が今何をしているのか、なぜそうしているのかを伝え、ネットワークの誰もがプロセスに関与し、インプットや想像力を提供する時こそが、興味深く、革新的で、道徳的に良いことが起きる瞬間です」。
「私たちは計画を実行に移していました」とラッシュのチーフ・デジタル・オフィサーであるジャック・コンスタンティンは語っています。「『善のためのテクノロジー(Tech For Good)』というフレーズは必ずしも無意味ではありません。テクノロジー構築の背後にいる人々は、最終的にそのテクノロジーに倫理基準を根付かせる責任を負っています。ビッグテックのCEOは、新しい機能を設計する際の自分のふるまいを理解しており、倫理的に行動する機会が数多くあります。CEOたちがそのサービスの倫理基準に無関係に株主を満足させ続ける間、私たちは、全ての人々に明るい未来を築くことを重視する、同じ目的を持つ人々のコミュニティとともに、社会的な責任感があるデジタルの未来に向かいます」。
ラッシュのディレクターであるアナベル・ベイカーも同意します。「私たちは未来の可能性を洞察してきました。Web3と次世代のインターネットには、私たちが望む空間となる無限の機会があるのです。さあ、今こそ私たちが望む未来を自ら積極的に作っていきましょう」。
完
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