難民の若者に日本で未来を拓く道(Pathways)を
一般財団法人パスウェイズ・ジャパン
難民の若者に日本で未来を拓く道(Pathways)を
― 世界中で増加する難民 若者が直面している課題は
紛争や政治的な混乱により、世界で難民となる人々は増加しています。昨年、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が発表した「グローバル・トレンズ・レポート2022」によると、2022年末時点で、紛争、迫害、暴力、人権侵害により避難を余儀なくされた人は、1億840万人に上りました。1年間の増加数も1,910万人増と過去最大です。
難民の状況に置かれた若者は、それまでの生活や計画は一変し、描いていた将来や追いかけていた夢を一旦手放すことになります。例えば、シリアの若者は、2011年から10年以上にわたる内戦と混乱により、隣国等に逃れ、不安定な法的な地位の下、将来の選択肢が見えない状況に置かれています。アフガニスタンでは、2021年にタリバンによる実効支配が始まってから、多くの若者が命の危険を感じて国を逃れ、さらに女性の教育と就業が制限されています。また、ウクライナでも、2022年2月のロシアの侵攻から2年が経過しましたが、未だ紛争解決の道筋はみえず、600万人以上の人が故郷を離れている状況が続いています。
難民の受け入れは、従来各国政府や国連が主導して進めていましたが、2010年代以降、紛争や人権侵害により難民となる人々が急増し、新たに市民社会が主導して受け入れの道筋を作ろうとする動きが各国に広がってきました。私たちが取り組んでいる「教育パスウェイズ」は、教育機関や地域コミュニティ、企業など民間が主導して、政府とも連携しながら、教育と就労を通じて難民を受け入れる取り組みです。今後5年間で20万人の難民受け入れを実現することが目標として掲げられています。
ー パスウェイズ・ジャパンが目指すこと
パスウェイズ・ジャパンは「誰もが自身の力で未来を切り拓ける世界」をビジョンに、世界各地で難民の状況となった人々を受け入れ、主体的に日本社会の一員となることができるようサポートしています。「パスウェイズ」という団体名には、国外から日本への道筋(Pathways)、そして難民となる経験を経た若者たちの未来への道筋という思いが込められています。
世界的に「教育パスウェイズ」を進める潮流の中、2年間日本語学校で学んで進学または就職を目指す「日本語学校パスウェイズ」と日本語教育及び高等教育を提供する大学で学ぶ「大学パスウェイズ」の2つのプログラムを実施しています。学生が日 本 で 自 立 し て 生 活 を 築 い て い け る よう 、 来 日 前 か ら 受 け 入 れ 教 育機関の卒業まで、一貫した支援を行っています。2017年にシリアの学生の受け入れから始まった事業は、2021年からはアフガニスタン出身者、2022年からはウクライナ出身者に広がっています。
多くの方のご支援をうけ、2017年から現在までに150人以上の難民の経験を持つ若者の受け入れを実現してきました。受け入れを担う教育機関も18大学、23の日本語学校に拡大し、難民の方を学生として受け入れる土壌が作られています。
ー 日本で学ぶ難民の学生たち
難民の学生たちは、2年間日本語学校で学ぶ傍ら、アルバイトなどを通じて日本社会との接点を広げ、卒業後は進学・就労し、自立し主体的な社会の一員となるよう歩んでいきます。異文化での生活、学業とアルバイトの両立、母国の不安定な状況への懸念など、様々な困難にも直面しますが、遠く離れた家族、祖国への思いなどを心の支えに立ち向かい、日本で未来の道を拓いていきます。
パスウェイズ・ジャパンのプログラムで来日し、日本での学びに励んでいる2名の女性をご紹介させてください。1人目は、ウクライナ出身で、2023年4月から龍谷大学で学んでいるイリナさんです。
「ロシアの侵略のころ、ウクライナでは安全だと感じませんでした。日本の大学がウクライナの学生に勉強を続ける機会を提供してくれ、日本で勉強を続けることができたのは、よかったと思います。大学で勉強するのが好きで、大学はウクライナ人学生の勉学と日本での生活の両面で支援しています。
日本で沢山優しい人々に会って、日本人の友達がたくさんできました。京都ではさまざまな史跡を訪れ、地元の人たちと交流することができました。
日本の大学で学ぶことは、良い知識と経験を得る絶好の機会なので、私は、日本で勉強を続けたいと思っています。現在、修士課程への準備をしており、終戦後のウクライナの発展に役立つ知識を得たいと思います」
もう1名は、アフガニスタン出身のFさんです。2023年4月に来日し、現在、千葉県の日本語学校で学んでいます。
「月日が経つのは本当に早いもので、このようなことが自分に起こったことがいまだに信じられません。とにかく、日本での滞在と勉強が安全かつ順調に進んでいることをうれしく思います。教科書も一冊目を終え、2冊目に進んでいます。去年の12月に日本語能力試験N4を受験し、今年中に日本語能力試験N2の取得を目指しています。アルバイトもしています。卒業後は奨学金をもらって大学に入り学士号を取得するか、専門学校に入学しようと思っています」
母国から逃れざるをえないという経験を経て、様々な困難に直面しながら日本で新しい生活を築こうとするたくましい学生の姿を私たちは見てきました。そして、多くの壁を乗り越え、日本で教育をうけ成長していく学生たちは、将来、日本社会にも新しい可能性を拓いてくれると期待しています。
ー 一人ひとりにできること
日本では「難民」というと、「困難な状況にある貧しい人」「援助に頼る人」というイメージがあるかもしれません。しかし、難民の人々には、機会があれば自分の力を活かし、教育を通じて伸長させ、社会で活躍するポテンシャルがあります。そのような難民の学生を教育と就労を通じて受け入れることは、社会にとって「重荷」ではなく「機会」になります。そして、急激な人口減少に直面する日本社会は、ウィンウィンな関係でこれらの若者に機会を提供できると考えています。まずは、難民の状況となった若者が、日本で学び未来を切り拓こうとしている姿を多くの方に知っていただきたいと思っています。私たちのソーシャルメディアでも随時、活動の様子や難民の学生について紹介していきますので、ご覧いただくとともに、皆様の感じた思いとともに、広げていただけると幸いです。
また、難民の学生が日本で生活をしていくには、学校での受け入れはもちろん、住居、生活の立上げ、日本語習得、地域コミュニティへの参加、アルバイト、インターン、就職など、様々な形で日本社会とのつながりが必要となります。お勤めの学校や企業、お住まいの地域で難民の若者との接点を作る機会ができそうでしたら、ぜひご連絡いただけますと幸いです。
最後に、日本に来て学びたいと思う学生は多いのですが、日本での教育の機会を広げるには、渡航費や生活支援などの財政面の支援も欠かせません。皆様からのご寄付を通じた支援も、難民の若者の未来の道を広げるための大きな支えとなります。
世界で起きている紛争や政治的な混乱は、遠くの世界で起きているようにも思えますが、教育を通じた難民の受け入れは、日本にいる私たちだからこそできる支援になります。これを機に、日本で生きる難民の若者に関心を寄せていただき、私たちと一緒に難民の若者が未来を切り拓けるよう、アクションを起こしていただけますと幸いです。
WORDS BY
一般財団法人 パスウェイズ・ジャパン
代表理事 折居 徳正(Norimasa ORII)
一般財団法人 パスウェイズ・ジャパンは、助成プログラム「LUSH チャリティバンク」のパートナー団体です。本プログラムは、ハンド&ボディローション『チャリティポット』を中心としたチャリティ商品を対象に、売上げの全額(消費税を除く) を社会課題の根本解決に取り組む小さな草の根団体に寄付・助成しています。
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