酒井悠太さんインタビュー

福島で綿花の有機栽培に勤しむ酒井悠太さんが歩む道

東日本大震災から10年が経つ2021年の春、これまで福島の地で自らの道を切り拓いてきた、ラッシュの原材料を生産する方々は今、どんな道を歩んでいるのでしょうか。 

福島県いわき市在住 株式会社起点 代表取締役 酒井 悠太

震災から10年。今、どんなことを考えていますか。

10年、ということをそんなに意識はしてないんですけど、あっという間だったなと思います。この10年って人によって 見てきたものが違うと思いますが、僕は「地域」や「復興」ということよりも、自分勝手ですけど、コットンの事業と自分に向き合ってきました。震災前とは全く違う生き方になってきたことが一番嬉しいことです。

 

震災から10年が経ちますが、変わらないものはありますか。

変わらないものかぁ。生き物、動植物が好きということでしょうか。昔から図鑑が好きで、昆虫や動物を模写したり、絶滅した動物を調べたりしてました。そういうものに興味関心があったせいか、畑で虫と出くわすと夢中で観察してます。そこにいる動植物にも敏感になると、だんだん彼らの生息環境が気になってくる。住処を借りているのは我々で、自然環境において僕たち人間は脇役なのかもと考えたりします。なるべく生き物に優しくありたい。ふと、そう思います。

あと、僕はイノベーションを起こしたいとか、特別なことをやれる人ではなくて、震災前から大切にしたいと思っていたことを、コットンに見つけただけなんだと思います。自身の感情と理想に従ってきた流れが、福島のコットンを織り交ぜた製品の企画販売をするという現在です。自分たちができる範囲で、正しい行いで、正しく生きて、ただひたすらに続けていきたい。

 

起点のウェブサイトに掲げられている「循環」という言葉について、聞かせてください。

会社の理念を考えていた時、常に「循環」が頭に浮かびました。人間も結局、いずれは土に埋まるじゃないですか。何かを意識しても「循環」に行き着くんです。文化も繁栄と衰退を繰り返します。街並みもそう。世界中の色んな分野で、良くも悪くも何かしらが常に廻っているものだと思います。

思うようにいかないこともいっぱいあるけど、いずれどこか良い循環の流れになるんじゃないかと考えたら、変に気負いしなくなったというか。例えば「僕らが有機農業で福島の土を変えるんだ!」みたいなのは、なんというか、ちょっと無理があると思ってしまうんです。でも、実績を積み重ねていって、これから生まれてくる人たちが少しでもその活動を知ってくれれば、同じようなアクションを起こしてくれる人がいれば、それが大きなパワーになっていくかもしれないと思うと、僕の人生の中で何かを成し遂げなくてもいいかな、と。自然の流れなんですよね。

父親が歳をとってから土いじりを始めました。腰を曲げながら、家庭菜園をしてます。若い頃って汚れることを嫌うじゃないですか。でも、歳をとるごとに抵抗がなくなってくる。土に触りたくなる。何かを育てたくなる。土に還っていく。不思議だなぁ、面白いなぁ、って思います。

生きてる間にこうしなきゃいけないということから解き放たれたのが、良いかもしれないですね。そして、東日本大震災があったから、吹っ切れたのかもしれない。責任転嫁でもなんでもなくて、何かを成し遂げることはどこかの誰かがきっとやってくれる。もちろん、自分かもしれない。僕は原発事故がきっかけで、こういうことをより考えるようになりました。世界はガラッと変えられない中でも、それに倣ってずる賢く生きていくのも嫌で。せめて自分のことだけは肯定したい。

20年代の頃なんて、いくら稼いでいるかがステータスみたいな雰囲気はありましたけど、その価値観で生きていくことについていけなくて。そういうことじゃないんだよなぁ、何か具体的な行動で生き方を肯定したいなぁ、と思うんだけど、当時はどうすればいいか分からなくて。そしたら震災が起きて、ふくしまオーガニックコットンプロジェクトに携わり始めて、有機栽培のことも少しずつ学んで。結果として、色んなことを柔軟に考えられて良かったと思います。

震災後に出会った人たちが僕を照らしてくれました。自分ってこういう人間なんだ、って人との関わりの中で知ることもありました。だから、ありきたりですけど、震災後に出会った人たちとのつながりは僕の財産なんです。 

 

近い未来、どんな道を歩んでいきたいですか。

コットンの有機認証や「白綿」の栽培に挑戦してみたいです。そして、これまで作ったことのなかった生地の開発を色んなルートで進めています。なかなか形にならなくてモヤモヤしますけど。それこそ、ラッシュの皆さんとは互いの事業の可能性を探っていくのが面白くなってきました。自分たちが育てているコットンの価値をもっと目に見える形にしていきたいですね。

ずっと欲しいな、と思っているのは店舗です。商品をたくさん置ける畑の近くにある店舗。人が自由に集まって、出入りできる場所。起点のクリエイティブの一環として、僕たちの成長や進化を表現する空間にしたいです。

そう、この間「地域の仕事紹介」という形で地元の中学校に行ったんですけど、進路に悩む中学生たちに「何でもいいから熱中できることを一つ持ってると、大人になって時に思いがけないところで仕事になったりする」ということを話しました。

明確な目標が見つからなくても、信念のみで人生何とかなってきた僕の例です。何においても特技がないのがコンプレックスだったんですけど、デザイナーやパタンナーさんのアイデアや職員さんの技と知識をお借りして、ものづくりをさせてもらってます。僕たちがコットンに打ち込む姿をみてもらって、次の世代の子たちが自身の可能性を自由に伸ばせる地域になっていくといいですね。 

 

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