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「ザ・カインドネスエコノミー」グレイトなビジネスとは?

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イギリスを拠点とする小売業コンサルタント、メアリー・ポルタスが自身のポッドキャスト「ザ カインドネス エコノミー」で2021年1月に配信した、ラッシュの共同創立者のマーク・コンスタンティンに「グレイトなビジネスとは?」と聞いたインタビューの全容を日本語でお届けします。

You can listen to the entire talk on Spotify📻

プロフィール

メアリー・ポルタス

1980年代から小売業界でキャリアを積んだメアリーは、利益が一番、人は二の次と言うことを学びました。31歳になる頃には、ロンドンに本店を構える百貨店、ハーヴェイ・ニコルズのクリエイティブ・ディレクター、そして取締役に就任。十分な収入や権力もあり、十分すぎるほどの洋服も所有していました。順風満帆な時間を過ごしていましたが、いつも何かが違うと感じていたメアリーは、長男が大学に入学する頃、一番下の子どもが産まれ、ビジネスの世界と「優しさ (kindness)」という言葉がどうしても交わらないことに気づきました。

その後、代表を務めるポルタス社のスタッフの協力もあり、自身の会社にとって一番大切なものは人であることを全員で共有し、それぞれが職場で本来の自分であることを大切にできる会社をつくるため、変革に取り組みます。そこで気づいたことは、優しさは弱みではなく、強みであること。そして、優しさは正直さ(truth)、誠実さ (integrity)、長く続くこと(longetivity)、そして営利性 (commerciality)を兼ね備えたビジネスを成長させるための基盤だということです。

メアリーは、消費主義とピークのある時代から遠ざかるにつれて、新しい種類の経済に参入していると信じています。それは、経済的、環境的、社会的という3つの側面であるトリプルボトムライン、そして優しさに基づき、大切なものの順番は人、地球という惑星、利益だと言います。この先、このような思いやりあふれる姿勢を軸に組織化するビジネスが勝者となるでしょう。小売業の社会的役割を熱心に支持するメアリーは、コンサルティング会社であるポルタス社のチームとともに、市民をより良い消費者に、国内の店舗をより良いビジネスにすることを目指しています。

ウェブサイト https://weareportas.com/

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メアリー・ポルタス(以下、メアリー) 「旅」という言葉は、様々な場所で使い古されたかもしれませんが、マーク・コンスタンティンにはピッタリな言葉だと思います。2歳の時に父親が家を出ていき、16歳になるまでに家族は崩壊、死別しました。行く当てもなく、友人の家と野宿を繰り返していたマーク・コンスタンティン。実は、舞台メークのアーティストになりたかったのですがその機会には恵まれず、代わりにヘアメイクの経験を積みました。すごく腕が良いというわけではなかったようですが、ハーブを使った商品開発への情熱に火がつき、ザ・ボディショップの創業者、アニータ・ロディックの目に留まります。

ザ・ボディショップの人気が爆発すると、マークと妻のモー、そして彼らのビジネスパートナーが作った商品は、たちまちベストセラーとなりました。ザ・ボディショップがそうした商品の権利を購入すると、マークはパートナーたちと新たに化粧品のベンチャー企業を立ち上げ、自然由来の原材料を使って、バスボムや固形シャンプーを作っては最高にクリエイティブなアイデアを試し始めました。視聴者の皆さんはご存知かもしれませんが、動物実験など、自分たちにとって大切な社会課題に対して、キャンペーンも始めました。

でも、ザ・ボディショップで得た資金をものすごい勢いで使い果たし、そのビジネスは6年で倒産。それでもマークは失敗から学び、妻のモーと4人の友人の力を借りて、再びビジネスを始めました。自然由来の原材料から商品を作るという昔からの哲学を守り、包装をシンプルにして、有名店の真似をすることへの資金の無駄使いもしませんでした。高品質な商品は、生産者に正直に還元されました。

これがラッシュの始まりです。その後のことは、もう知ってますね。ラッシュは今では900以上のショップを世界中に構え、他社がやっと追いつきつつあるような土壌を何十年も開拓してきました。人権や動物の権利のためのキャンペーンから、革新的な働き方まで、ラッシュは創立者の理念を本当によく体現しています。エシカル憲章に忠実に経営され、スタッフもそれを自分のものとして、重要な決定には従業員に発言権を与えています。そして業績の悪化をかえりみず、生活賃金などの取り組みを導入しました。

マーク・コンスタンティンという人は、良心を持った、化学反応を促進するカタリストと言ってもいいかもしれません。彼は昔、こう言いました。「カスタマーには自分の信じることを伝えるべきです。もし賛同を得られないようなら、買わなければいい。もし賛同するなら買えばいい」。すごく、シンプルですよね。

マークが、ロンドンでヘアメイクとして働いていた頃、「ハニー」という雑誌にアニータ・ロディックという人物が載った広告を見つける直前の頃まで、少し時間を戻しましょう。

マーク・コンスタンティン(以下、マーク) その頃、短い間ですがセントラルロンドンのキングスブリッジにある「ジンジャー・グループ・ヘアドレッサー」とボルマー通りにある「エリザベス・アーデン」で働いていました。これが貴重な経験となりました。ローレン・バコール (アメリカ出身の女優)やジャッキー・ケネディ (第35代アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディの夫人)のシャンプーをしていたんです。心躍るような、色んな人たちの髪をです。そんなことが沢山ありました。1972年から1973年のことですね。ドラッグもそこらじゅうにありました。マーク・ボラン (ロックバンド「T・レックス」 のボーカル)もメークのために来ていました。全てが特別でした。

メアリー オーマイゴッド!私は彼の大ファンなんです。部屋の壁にピンクのサテンシャツを着たマーク・ボランの小さなポスターが貼ってありました。

マーク その時の彼は、ピエール・ラロッシュという、エリザベス・アーデンのメイクアップ・アーティストだった人と何かあったみたいです。彼とボランが一緒にやって来て、奥の部屋に消えていきました。何か、やってたんだと思います。分かりませんがね。

メアリー もちろん、メイクをね。

マーク 多分、そうですね。休んでいたのか、何か始めようとしていたのか。とにかく、私には専門技術がありましたが、ロンドンで燃え尽きた頃にプールという町に移って、リズ・ウィアーに出会いました。私が髪に夢中なのと同じくらい、リズは美に夢中でしたよ。だから、話しはじめると止まらなくて。私たちはヘアサロンを辞めて、「ハーバル・ヘア&ビューティークリニック」という小さなビューティーショップを始めたものの、全く稼げなくて、死ぬほどお腹を空かせていたのを覚えています。それが始まりです。そこから、人のための商品を作りたくなりました。生活しないといけなかったので。そして、ブライトンにあるアニータの店についての小さな記事を見つけました。「ハニー」という雑誌でした。そしてアニータに電話をしたんです。当時は電話を持ってなかったから、外の電話ボックスからね。

メアリー いいですね!

マーク 持てる全てを注ぎ込みました。アニータもお店に電話を置くことに不安があったのか、公衆電話からの電話だったのですが、それから沢山やり取りをしました。直接会いにも行きました。アニータの魅力はなんと言ってもあのカリスマ性です。彼女のパートナーのゴードンもですが、セールスがうまくて、何がうまくいっていて何がうまくいっていないのかを察知する感覚が優れていました。あなたが人生において誰かに大きな影響を受けたことがあるか分かりませんが、今の自分があるのはアニーらとゴードンのお陰だと、常に意識させられます。イラつくことはありません。

メアリー それ、嘘でしょう。あなた、それを楽しんでませんか。イラついてないことは、自分でも分かってませんか。実は、嬉しいことに私もアニータから電話をもらったことがあるんです。ハーヴェイ・ニコルズで仕事をしていた頃です。それもすごいことですけど。「いい仕事をしましたね、気に入ったわ」って。楽しい会話でした。アニータ・ロディックが、私の仕事をすごく気に入ったって伝えるためだけに電話くれたことが、純粋に素晴らしかった。

マーク 彼女は思いやりあふれる人でした。私がシンプルな環境で、すごくシンプルな方法で商品を作っていることを知っていました。それを見に来たりもしました。好奇心旺盛でスピーディーで、私が見せたくなかった戸棚まで開けられてしまいました。彼女は何でも知りたがりました。

メアリー 最終的には、彼女が販売する商品のほとんどをあなたが作っていたのですよね。

マーク 分かってもらえると嬉しいのですが、私は自分が技術を持ち合わせた起業家だと思っています。そして、彼女は真の起業家だということです。彼女が化粧品を好きだったのか、それが彼女にとって重要だったかは分かりません。彼女にとって本当に大事だったのは、人権だと理解していました。本当に、人が大好きでした。で、これは当時、最大の秘密でしたが、サンフランシスコのザ・ボデイショップのことは、ただその通りに客観的に思っていた。本当の目的は、ただブライトンにお店を開くということだけでした。ちょっとアイデアを盗んだかもしれません。でも、彼女には商品を作ったり、それに関わることに情熱があったわけではなかったんです。私の場合は、技術的な起業家で、自分のビジネスが大好きです。彼女にとって私は、ポール・スミスにとっての仕立て屋のようなものでした。

メアリー 私は二つのことに衝撃を受けています。一つ目は、アニータのようなすごい人権活動家が、ビジネスという手段と出会って、それが彼女が心の底から信じるものの表現となっていったこと。二つ目は、あなたのことです。あなたは環境の権利を守る真の環境活動家。

マーク そうですね。

メアリー 私の想像かもしれませんが、あなたはビジネスを手段、あるいはその他のものとしてメッセージを伝え、両方の意味で、商業としてだけでなく、人々に仕事を実際に与え、人が共感し、良いことを成し遂げるブランドを創り出した。これは70年代前半の話で、今は2021年。それが、たった一つ、ビジネスを将来も続けていける道だと分かってる、人類と地球を残したいなら。人と地球、二つのかけがえのないものが、健やかであって欲しいなら。

マーク 確かに私たちは開拓者でした。でも、今は人に言われます。「ヴィーガンが流行るということを早くから予想していたんだね、やったね」という具合にです。確かに、ヴィーガンの人たちは長い間私たちのお客様ですが、必ずしも優しいお客様ではありません。でも、素晴らしいことは、みんなが一緒になり始めているということです。例えば、今イギリスの地方では、1%が自然保護区となっていて、残りの99%はそうなっていません。当たり前ですが、そういうところには家が建てられたり、食物が育てられたり、何も活用されていなかったりします。どうして素晴らしい田舎が台無しになり、自然保護区として守られないのか。なぜ全てがおかしくなるようなことを許してしまったのか。今起きていることは、農業に変化が起きているということです。自然が変化する中で、元に戻りつつあります。それは、ビジネスでも同じなんです。

今の中心的なビジネス、アパレル業なんかは、もうずっとおかしな状態でしたよね。あらゆる服がなんらかの過ちから作られていた。言っている意味、分かりますよね。最悪の場合、どこかの収容所のようなところで作られていた。でも、もうそれではサステナブルではないし、実用的でもありません。収益を悪化させ、企業の業績も悪化させる。だからこそ、今はワクワクするような時代なんです。99%が1%と合流しようとしています。それが、すごくワクワクすることです。それこそが前に進む道です。

メアリー その通りですね。覚えてます。あらゆるサプライチェーンが海外に移って、みんなが安いものを追い求めていました。それが賢かった。

マーク 私にとって、それはまさにマークス&スペンサーです。それが彼らの唯一の強みでした。

メアリー それが唯一の強みなんて「最悪!」と言いたくなります。みんなそう言ってましたが、知ったこっちゃないですね。役員が意思決定して、トップにビジョンがない時にこういう会社が出てくるのです。私はそう信じてます。これについては、また後で話しましょう。彼らはデータや数字だけを見て、海外に移転するのが理にかなっていると言います。もし私がマークス&スペンサーをやり直すのであれば、あらゆる製造をイギリスに戻して、全てプライドを持って「メード・イン・ブリティッシュ」にして、サプライチェーンの距離を短くします。そうしたら、絶対成功して欲しいと思って、ブランドへの気持ちと愛が溢れてきます。

悲しいことに、経済番組でマークス&スペンサーの名前を聞くと、成長は伸び悩んでいます。それによって影響を受ける仕事、無くなる仕事は、誰も気にかけてないですし、ビジネスも縮小しています。誰も、そのビジネスの健全さは気にしていません。収益が成功の唯一の基準と見られています。それを変えていくんだと思いますが、でもどうやってその変化を起こし、健やかさを測るのかについては、分からないことがたくさんあります。

マーク 私は違うと思います。社会全体として、トップの人間にフォーカスしすぎていると思います。私がいる時にリーダーシップを発揮することは大事です。でも、当たり前ですが、私がいなくてもリーダーシップが存在することが大切なんです。でも本当の鍵は、誰を雇うかなんです。

メアリー 私が言っているのは、ビジョン、ビジネスのカルチャーのことです。

マーク 私のビジネスのビジョンとカルチャーは、その中の人々が創るということです。

メアリー それは、あなたがそうさせるからでしょうか。

マーク いや。もし、マークス&スペンサーを経営しているなら、何千人という人間をマネージするのに、どれだけ忙しいでしょう。ジョン・ルイスについて、ちょっとしたジョークを言ったことがあります。彼らのマーケティングの会議か何かで、参加者の一人が、私がどうやって従業員を選ぶのかを質問しに来ました。ジョン・ルイスは、すごい厳しいみたいですね。ロンドンにいた時に、ジョン・ルイスに入ろうとしたことがあります。妊娠テストか何かを受けさせられているみたいで、悪夢のようでした。マークス&スペンサーと来たら…

メアリー 結果は?落とされましたか?

マーク はい。とても嫌なものです。妊娠テストみたいな尿検査は…。

メアリー 私もマークス&スペンサーに落とされましたが、同じでした。

マーク すごく頑張らないと、マークス&スペンサーみたいなところでは働けませんね。だから説明しました。マークス&スペンサーにはすごく努力しないといけないような、タフな採用プロセスがあると。で、私は、その残りの人たちを採用します。残りの人が素晴らしいんです。それは、タトゥーを入れたり、髪を変な色に染めたりする、こだわりのある人たちですから。私には、特にこだわりはないですが私の同僚は、私を「フィッシュ&チップス男」って呼びます。私はずっとベジタリアンで、魚も食べます。私はヴィーガンの人たちと多くの時間を過ごしています。人によっては、彼らを極端だと言いますが、私は極端だとは思いません。ここに、優しさの原則が関係するのです。ものすごく気にかける人たちは、猛烈に優しい人たちです。「猛烈」と組み合わせるなんて、変な組み合わせですね。

メアリー 分かります。

マーク 彼らは、猛烈に優しい。情があるんです。ヒラリーというスタッフがいるのですが、もし庭で怪我をした小鳥を見つけたら、すぐにヒラリーに電話をします。そうしたら、すぐやって来てなんとかしてくれる。彼女は、ラッシュのエシックスディレクターです。

メアリー そこには共通の信念体系がありますね。あなたから聞こえてくるのは、そういうことだと思います。彼らの信念をあなたも共有している。それが分かります。

マーク 私が言おうとしているのは、私が、彼らと同じ信念を持っているということです。

メアリー 私が言いたいのは、本当にこれを信じているのですが、マークス&スペンサーのようなビジネスを見ると、彼らだけじゃないのです、そうじゃない。彼らに対して不公平なことを言いたいわけではないんです。

マーク スチュアート・ローズ(2010年までマークス&スペンサーの会長)は、起業家の精神を持っています。

メアリー スチュアートとは、何度も話をしたことがありますが、確かに起業家精神持っていると思います。スチュアートは実際、共通のビジョンで人をつなげて率いたビジョナリーの一人ですよね。それが、ここで言わんとしていることです。真の共通の信念に基づいて意思決定することは、ビジネスではとても難しいのです。収益だけを追い求めるから。

これに話を戻しましょう。もしあなたが本当にそう信じているのなら、優れたビジネスというのは、あなたの場合は、環境や人道的に何か良いことをしたり、あるいは単純に、人々に働きがいを与えたり、仕事を与えることだとしたら、工場を閉鎖して、地域社会が崩壊することを許すなんてことはないでしょう。あなたなら絶対そんなことしない。そういうということです。今の状況を見てください。

マーク まあ、そうですね。将来どうなっているかも考えてみましょう。アパレル業界と変化の話をしていたでしょう。私はこれまで5回くらいのグリーンな波を経験していますが、その時はみんながそれを賞賛しましたが、すぐに離れていきました。

メアリー そう、その通り。

マーク でも、それでいいんです。できることは、全部やるべきだから。

メアリー 私が言いたいのは、人はそれがその時だけのことと思ってやっているわけではないということです。思うに、私たちはやり方を間違っていたんだと思います。ビジネスでの悪い考え方に、長い間ずっと足を取られていました。でも、それが動機にもなっていたと思いまし。そして、それが分からないこともある。今、必要に迫られてそれを見ています。

マーク あなたは自分の経験を見ている。そして、一体何が起こったんだと思っている。

メアリー もちろん、そうです。あなたはどうでしょう。私は「一体何が起きて、どうやったらそんなに間違うのか」と思っています。

マーク 違うんです。間違っている訳ではないんです。あなたは生活する必要があって、当時のあなたのいた業界は、そうやって生計を立てていました。他にどうしろというんですか。どうやって、そんな急激に変化しろっていうんですか。つまり、アニータ・ロディックとゴードン・ロディックは、二人揃って気が狂っていました。全てがものすごく速くて、ストレスもたくさんありました。私にとって、ものすごくストレスの多い時期でした。アニータは確かに、いつもストレスを抱えていました。いつアニータが壊れのかと心配していました。でも気づいたんです。壊れるのはアニータじゃなくて自分だって。

メアリー そうですね、気が狂っていましたね。でも、そういうことなのです。頭のおかしいことから話しましょう。今やろうとしていることがあって、このことについての本を書いています。生まれようとしている、この新しい経済について。私たちの次の世代、私たちの子どもの世代にとって、この地球で起きていること、私たちの暮らし方はもう限界に来ています。変わらなくてはいけないことを分かっています。シンプルに見てみましょう。変わらなければ、私たちは間違いなく終わりです。だから、変わらなきゃ。しかも、それをやるべきなのは、正しいことだからというだけじゃなく、ここが本当に嬉しいところなんですが、ビジネス的にも理にかなっているということです。

マーク その通りです。

メアリー そこで思うことがあります。そのバランスをどう取るかということです。変化を起こしながらも、気が狂っていると思われない人たちがいるでしょう。覚えていますが、ロレアルがアニータのビジネスを買収した時のこと。その時は、結構なショックを受けました。だって、単純に彼らの価値観は普通の企業と同じように感じでしたから。私にもそう見えたし、よく言われていたことですが、あぁ、彼女は少しイカれていたけど、少し脇にそれたんだな。あの頭のイカれた人は、すごい起業家で、すごいビジョナリーだったんだと思いました。それなのに、どうして…

マーク 彼女は、自分が病気だと知っていたんです。

メアリー 本当ですか。

マーク そして、ゴードンが私に言ったんです。「マーク、私たちと君の違いは、君はチームを作り、私たちにはそれがなかった。チームがいなくて、子どもも関心を持っていなかったら、どうすればいいんだろう」。その上、彼女にはそれがチャレンジだったんじゃないかなと思うんです。こうした結論が出るまでずいぶん時間がかかりましたが。いずれにしても、彼女は自分が病気であることを知っていて、私たちは病状がどのくらい悪化していたのか知らなかった。彼女はそれから間も無くして亡くなりました。それを知ったら全てが変わりませんか。

メアリー もちろん変わりますね。そうやって全てを理解すべきですよね。自分が何を残していくのか。全てが明日止まるとしたら、自分は何を残せるのか。

メアリー 自分が残していくものの心配をし始めたら、もう終わりが近いということです。ビジネスって一世代、二世代以上続くべきものなのでしょうか。そんなに続かないビジネスもあります。だからといって、そこにインスピレーションがないわけではありません。私は、あなたのことを考えていて、どんな影響を小売業に与えたんだろうと。バーバラ・フラニッキ(60〜70年代ロンドンの伝説的ブランド「Biba」のオーナー兼デザイナー)は、あなたにも影響を与えましたか?

メアリー とても影響を受けました。でも面白いことに、私への影響は必ずしも直接彼女からではなくて。私も、ちょっとあなたみたいなんです。ある意味、この業界に出会ってしまった感じです。私はどちらかというと、詩や作家たちから影響を受けています。

マーク なるほど。

メアリー それを自分の仕事に反映しています。クリエイティブな精神やエネルギーには、いつも興味をそそられます。私がハーヴェイ・ニコルズに移って最初にやったことを覚えてます。ロイヤルコートです。通りにあるその劇場が、資金集めをしていました。どうしたら、彼らを助けられるのか。どうしたらこのビジネスのコミュニティをつくれるのかを考えていました。私はビジネスや小売を、ただのアパレル業だと思ったことは一度もありません。私にとってビジネスは、どうやって喜びをそこに生み出すか、それが全てでした。

マーク 慈善という意味で与えるということ (giving)については、私が髪を洗っていたブロンド夫人という一人の人から大事なことを学びました。ブロンド夫人は、マークス&スペンサーの後継者で、ロイヤルコートのパトロンでした。彼女は、よくロイヤルコートのチケットを持ってきて、私にくれました。パトロンだから10枚くらいチケットを持っていて、一枚か二枚を私にくれるのかと思っていました。私に一枚、妻に一枚。ある時、それを換金しに行ったのですが、その時に言われました。「ブロンド夫人は、自分でお金を払ってこのチケットを君に買ってるんだよ、知ってる?」という具合にです。もちろん知りませんでした。ジョン・オズボーン(劇作家)に激しく攻撃されて、出会った中で最悪の女性だと聞いたことがあります。彼女は彼のパトロンで、どれだけ激しくこき下ろされても、パトロンをやめなかったんです。それって、すごく素晴らしいことだと思います。それを振り返ると、彼女は芸術のパトロンで、その芸術が表現したいことはそれがなんであれ、ロイヤルコートで上演しました。それが自分の考えや、例え自分を中傷したり、怒らせるようなものであろうと関係なくです。

メアリー なんて素晴らしい話!しかも、あなたは少しそこに思い入れがあるように伺えます。でも、その創造性、言葉、表現のどれもが私にとって喜びでした。小売をやっていて、売上げをあげることより何よりも。売上げは副産物でした。自然と生まれて、育っていった。それは、あなたに起こったことと同じだったのでしょう。そして、アニータのお店を考えると、あなたはこの喜び、エネルギー、そこにずっといたいと思える場所なのです。

マーク ものすごく、そうですね。

メアリー そうだったでしょう。

マーク そうなんです。心からそこにいたかった。

メアリー そう、心からそこにいたかった。そして、おまけに得たもの。それって、イケてるヘアサロンみたいなもの。色んな人が来ては去っていくように。今では有権者たちが「テクノロジーがハイストリート(繁華街)をとって変わる」なんて言っていますが、私たちは皆、人間だということを忘れていませんか。一緒にいる感覚。つながっていること。つながり合っていること。それって、すごくパワフルなことです。

マーク あまり言わないようにしているのですが、色んな人にハイストリートは将来どうなると思うって聞かれますが「それは個々のビジョナリーに関わるものではない」と伝えます。ハイストリートの将来は、すごくワクワクするものだと思います。

メアリー 私もそう思います。

マーク だって、これまでのつまらなくて古臭いものが淘汰されていくんです。次のものでさえ、私たちを変えていく、それって素晴らしいことです。

メアリー 本当にそうですね。これについてあの平凡な雑誌、ファイナンシャルタイムズに寄稿しました。商品を安く、素早く届けることに関して、そして経営とシステムの拡大に関しては、本当に優秀な組織と呼んでますが、それらが崩壊しつつあります。

マーク その時代は過ぎましたよね。ジョージ・デイビーズに触発されて、会計士に取って代わられましたよ。結構流行っていたビジネスです。起業家を退かせて、官僚みたいなのと交代させるという。

メアリー そこです。ビジネスのそのポイントについて、あなたと話したいと思っていたんです。

マーク もちろんです。

メアリー 申し訳ないのですが、あなたのビジネスのやり方は楽しみをつぶすと、自分でも言ってますよね。もちろん、そうです。あなたはスピリットがあり、情熱的で、ビジョンを持っている素晴らしい人間です。あなたからそういうことを感じます。本当ですよ。

マーク 必ずしも、みんなそうは思っていないようですが…

メアリー でも、ろくでなしではあり得ない。私も人に噛みつくことはありますが、そこに心がないってことではないですし。

マーク 前に、地元の警視総監の支援をしたことがあるんです。良い人でしたから。そこで、彼は票を求めて選挙運動に回ったんです。そこで彼がある店に行った時、その店主から「出てけ」って言われました。「お前とマーク・コンスタンティンなんか地獄で焼かれればいい」って。

メアリー なんてこと。

マーク 彼は著名な賛美歌の歌手で、猟師でした。

メアリー だからですよ!

マーク 彼は私を好きじゃなかったんです、メアリー。好かれていませんでした。

メアリー エシックス(倫理観)とビジネスの成功を生み出すことについて、ちょっと聞いていいですか。これは、私が企業にコンサルティングをしていて、世界のため、そしてビジネスのためにも良いことをしようとしている中で、ほとんどの人は利益を出したいと思っています。だって、利益は楽しむことを可能にするから!

マーク 利益を出すことは私も好きです。

メアリー 知ってます。私もです。お金を持っていることは好きです。でも、夜眠りにつく時には…

マーク 利益を出すことは、悪いことではありません。

メアリー 教えて欲しいんです。利益を出しつつ、世界のために良いことをするようなビジネスは、将来もっと生まれると思いますか。社会を進展させつつ、経済も進展させるようなものが。

マーク ここでは二つの言葉が重要です。「リジェネレーション」という言葉をよく使いますね。でも、それが何を意味するのか、ちゃんと理解されていないと思います。リジェネレーションとは、イキイキとした環境を再び生み出すということです。例えば砂漠の緑化。不毛な地を、肥沃で青々とした場所に変えるということ。リジェネレーションがキーワードです。あることが持続可能だと言うのは簡単です。でも、そもそもが間違っていたら、それを持続したくない。でも、リジェネレーションと活力は、政府や自治体だけに任せておけないんです。活気、活力があるほど、利益を生むチャンスがよりワクワクしたものになります。

メアリー それが、どうしたら上手くいくのか、もっと教えて欲しいのです。イキイキとした環境。何がそんなにワクワクすることなのか、もっと話してもらえませんか。

マーク それは様々ですが、例えば私たちが買う塩は、渡り鳥の渡りのルートの途中にある鳥の保護区が産地です。多くの渡り鳥が渡りのルートとして、塩田に立ち寄ります。それは、財政的には必ずしも活力とはならない。でも正直、塩はそんなに高価なものじゃないので、1キロあたり2ペンス高くなったとして、元々は4ペンスくらいなので、そんなに大したことじゃない。だから、なんとかしたいと思ったら、やったらいいと思います。他の極端な例ですが、エッセンシャルオイルが作られている場所が世界には沢山ありますが、実際に自分たちで製造をしている人ばかりではありません。原料を加工して、収入を得ている人がフランスにはものすごく沢山います。例えば、アフリカのソマリランドでは、フランキンセンスを生産していますが、現地ではそこまでお金にはなっていない。でも、それはとても高価な商品になるんです。もしそこで製造して、フランキンセンスを生む森が再生したら、現地にお金が残ります。原材料の地点です。そうすれば、ハイストリートや商業地が最適な場所ではなくなりますよね。

ペンザンス(イギリスのコーンウォール最西の町)のアーティストや詩人のグループを、どう思いますか。そうした人を集めて、そうした感覚を生み出せたら。あなたが詩を好きだと言った時、すごく嬉しかった。私は、すごく詩が好きなんです。有名な話ですが、10年くらいの間、毎朝妻に詩を読んでいました。彼女が私に「詩って、そんなに好きじゃないの」って優しく言うまでです(笑)。

メアリー それ、やりましょう!今は、マリー・オリバーがそうしています。今ちょっと目の前を見ましたが、私の好きなミュージシャンの一人、ヴァン・モリソンって、すごい詩人なんです。フランク・オハラを読むこともあります。詩は、別世界に連れて行ってくれる。日常に埋もれたり、与えられた仕組みに自分の思考がはまり込むことから、連れ出してくれるの。

マーク 詩といえば、私はヒッピーなので、分かりやすいけどジブラーンが好きで、BBCで番組もあったので結構有名だと思うのですが、「預言者」(原題:The Prophet)も好きです。「預言者」は壮大な詩ですが、その中で彼が買うことと売ることについて、音楽家や芸術家を呼び込むことを語っています。だって、彼らは全てに花を添えますから。それを私のビジネスでもやろうとしているんです。音楽家を絡ませて。詩人はそれほどでもないですが、確かに芸術家も。そして、それがビジネスの中に流れるようにしたんです。詩や詩人からインスピレーションを得て、それを自分の生活に取り入れて、それがとても上手くいったことに気づいて、そうすることでお金までついてくる。

メアリー そうですね。それについて、二つ質問があります。私もそのやり方をよくやります。自分の心に訴える作品を見つけて、チームとシェアします。それは素晴らしいこと。その逆もあります。私の会社のCSOから素敵なものをもらいました。仕事に戻った時に「なんて美しいの」と思いました。この素晴らしい作品を読ませてください。

「あけましておめでとう。一時間は、一時間ではなく。感覚、音、プロジェクト、気候や雰囲気の詰まった花瓶。私たちが現実と呼ぶものは、私たちを同時に取り巻く、こうした感覚と記憶の間に存在する、ある関係性なのです」。

あなたに聞きたいのは、あなたの言っていたようなビジョン、リジェネレーションを理解し、それをビジネスの中心に据えるということって、どうやればいいのでしょう。それをしていない大企業には、どんなアドバイスをしますか。あの経営の仕組みを突破して、それが極めて大事だと認めさせるのでしょうか。

マーク ジブラーンに話を戻しましょう。彼は、「理性は船の舵で、情熱が帆をはる風」と言っています。あなたが不満を持っているのは、そして、私たちがこうした企業について抱いている不満は、彼らには理性しかなくて、情熱がないことなんですよ。

メアリー もう一度言って。理性は船の舵で、情熱は…

マーク 帆をはる風。

メアリー 素晴らしい!!

マーク そうでしょう。風だけだと、当たり前だけど、岩に乗り上げる。経験してると思いますが。認めるけど、私が参考にするジブラーンの作品の中で、多分あれが一番役に立っていますよ。自分が馬鹿野郎な時にね。

メアリー 馬鹿野郎って言った?

マーク はい、情熱がありすぎて、理性が全く足りないのが私の問題なんです。

メアリー 私が、ハイストリートについてのレポートを書いていた時に、ジェイン・ジェイコブス(アメリカの女性ジャーナリスト)が60年代に書いたことを読んだのですが、アメリカの都市の終焉ついてのことです。皆、彼女はイカれていると思ったけど、私にとってはとっても心に響く、素晴らしいことを書いていたのです。

パンを一斤買うために外に出ると、お隣さんに挨拶をする。新聞を取りに出ると、お隣さんのお嬢さんが目に入って、今夜ベビーシッターをしてくれないかなと頼む。そして、彼女はこう綴っていました。こうしたことは、些細なことに見えるし、ビジネス分析の中では取るに足りない。でも、それが集まった時、それは全く些細なことではなく、私たちが人として必要なインフラ網で社会保障なのだと。彼女は、本当に正しかった。

私がハイストリートについてのレポートを書いている時、「フィリップ・グリーンに会った?」とよく聞かれたものです。「はい」と答えていたけど。当時は、それが成功でした。でも10年前にこのことについて話していたら、私たちのつながり、私たちの社会インフラはニーズにも基づいていること。その二つが融合すること。それは、ビジネスだけの問題ではなくて、ビジネスも人も、同じだと言うこと。ニーズを満たすものだということ。

よく人に言われました。あなたは理性と情熱について言ってたけど。あなたは感情的過ぎるって。「そりゃそうだ」と思ったことを覚えてます。私には向かない、政治は向かないって思いました。でも、違う。それが必要。感情が必要なんだって言ってやればよかった。

マーク アニータは、情熱の塊でしたよ。周りが理性を提供してた。

メアリー だからその二つのバランスだって、理解します。理性を使うのも嫌いじゃないんです。でも、情熱は、分かるでしょう。身体の中の振動みたいな感じです。分かるんです。それがあなたの魂で、エネルギー。これが正しいんだ、正しいことなんだって、分かるでしょう。時間が経つにつれて感じます。それを抑えてこなかった人に出会うこと。それはとても価値のあることだって。でも、言ってましたよね。

マーク もしかしたら、それは抑えられないのかもしれません。

メアリー だとしても、パニック障害になったと言ってましたよね。

マーク はい、ずっとパニック障害でした。今はそれほどでもないですが。

メアリー それほどじゃないんですね。よかった。

マーク スティーヴン・フライが、60歳過ぎたらならないと言ってました。だから、歳をとったからなのか、飲んでるレモンジュースのせいなのかは分かりませんが、かつては少なくとも月に一度はパニック障害を起こしてました。

メアリー 何が関係しているかは、分かったのですか。

マーク うん、心臓発作と私の祖母でした。

メアリー そう、そう!私の小さい弟も全く同じでした。小さいって言っても、もう50代ですが、彼の場合は母が亡くなった後に始まりました。本当にそうですね、マーク。本当に話が尽きない。ずっと話していられます。本当に素晴らしい時間でした。最後にあなたに聞きたいことがあります。ビジネスの将来は、この先5年の間に良くなっているでしょうか。

マーク 私は生き生きした風景が好きなんです。それがビジネスです。それをコロナの洗礼と呼んでいますが、そのおかげであらゆるビジネスが見直しを迫られています。見直しを迫られる中で、私にとってより大切な気候や環境、自然といったものが、皆さんにとっても大切なものになってきている。だって、それを無視したら、繁栄できないことが分かってきてしまったから。

メアリー そうです。

マーク だから、嬉しくなるようなことや、ギョッとするようなことでいっぱいの、生き生きとしたジャングルになると思います。願わくは、嬉しいことの方が多い10年になるといいです。これまでの10年よりは。

メアリー 同感です。あなたと話せて本当によかった。

マーク 私もです。

メアリー バイバイ。愛を込めて!

マーク バイバイ!

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