原材料の旅路を行く

透明で美しいバトンを未来へ繋ぐ
Prevented Ocean Plastic™

2024年9月下旬より、日本国内のラッシュのショップでは、海洋プラスチック汚染の発生場所となる世界中の海岸線や主要水路から回収されたプラスチックごみをリサイクルし、高品質の再生プラスチック素材として生まれ変わらせるPrevented Ocean Plastic™(以下、POP)のボトル容器導入が始まりました。

「POPは『海洋汚染を未然に防ぐためのプラスチック』と直訳できます。主に私たちが導入しているのは、海洋プラスチック問題の中でも危惧されている地域の一つであるインドネシアの海岸地域や、海に流れてしまう手前に発生したプラスチックごみを回収して、リサイクルして作られたものです。そのPOPで作られたボトルをお客様が手に取ることで、海洋環境や海の生態系を守ったり、その海岸地域でプラスチック汚染の最前線で対策に取り組んでいる方の支援にも繋がるプラスチックです」。

そう話すのは、ラッシュジャパンのバイヤーとして活動しているChiemi。ラッシュが掲げる「地球をよりみずみずしく豊かな状態で次世代に残す」というブランドパーパスを体現すべく、日々革新的な原材料や資材を模索し続けています。

写真提供:Prevented Ocean Plastic™

「POPというのは海洋プラスチック問題の根本的なところ、『流れ続ける問題の蛇口を閉めるような取り組み』」とChiemiは話します。

POPと一般的なプラスチックリサイクルの違いをいくつか挙げてみましょう。

  • 前述しているように「海洋に流出する前のプラスチックゴミを回収することによって汚染を未然に防ぐ」
  • どこで、どのように、回収されたプラスチックなのか”を追跡する厳密なシステムがあり、企業や消費者が確実性をもって海洋汚染防止の一環であることを確認できる透明性と信頼性がある
  • 発展途上国やインフラが整っていない地域で回収を行うことで“現地の持続可能な雇用創出や経済支援”にも繋がる

このようにPOPという取り組みは、より環境的・社会的影響力を持っていると言えるでしょう。こうした革新的な取り組みを実施するに至った背景をChiemiは話します。

写真提供:Prevented Ocean Plastic™

「私たちは、これまでずっと容器にリサイクルPETを使用したり、容器返却プログラム『BRING IT BACK』を通じて容器の循環型利用を推進してきました。POP移行に向けた話し合いを重ねる中で、日本におけるPET素材のリサイクル率が非常に高いことや、リサイクルシステム自体の整備も優れていることを改めて知ったんです。そのため、私たちが実践してきたこれまでの取り組みを継続することも大切だけど、インドネシアの海洋問題や世界的なプラスチック問題に目を向けた際に、POPは導入すべきという結論に至り、動き始めました」。

ラッシュはこれまで自社が製造する商品のボトル容器について、10年以上も前から100%リサイクルPETを使用してきたと共に、循環型容器返却プログラム「BRING IT BACK (ブリング イット バック)」を実施することで、自社製造する容器の透明性についてすべての責任を担うことにコミットし続けてきました。この背景の中で、より根本的な問題解決を図る取り組みとして新たな素材の導入へと舵を取り始めたのです。

ラッシュ本社があるイギリスでは既に導入されているPOPですが、日本国内でこの素材を使って容器を製造するという初の試みにはどんなチャレンジがあったのでしょうか。

「POPという原料で容器を製造する例はこれまで日本で無いので、パートナーさんを見つけられるかが課題でした。インドネシアの海岸等で回収されたプラスチックで品質を保てるのかという心理的な不安もありましたけど、何よりも私たちが掲げる、海洋プラスチックごみ問題の根本的な解決という今回のミッショに対して、共感と同じ熱量を持ってくれる方と一緒にやりたいという思いを一番大切にしていました。いろいろな方と話し合い、今回のパートナーである岡山県にある立花容器株式会社とお会いすることができました」。

プロジェクトの実現可能性、技術、品質。それらを担保することは勿論重要なことです。しかし、単にリクエストした素材で容器を作ってもらうという関係ではなく、ラッシュの理念や今回のプロジェクトを通して目指す未来を共有し、同じ志と視座で歩めるか否かがChiemiたちバイイングチームが大切にしていることです。

「私たちが目指すのは海洋プラスチックごみ問題に立ち向かうことだったので、なぜそれをやりたいのか、やることでどんな影響を及ぼしたいかを伝えて、じっくり話し合いましたね。その中で、立花容器さんにも『これは本当にやるべき!』という熱意が芽生えた瞬間があったので、そこから導入まで一緒に駆け抜けることができたのだと思います」。

左から:バイヤー Takashi、立花容器株式会社 岡野社長、バイヤーChiemi

数多ある企業の中から、自分たちの思いに共感してくれる方々と出会えたことは、とても恵まれていたとChiemiは話します。私たちが大切に持ち続けている思いのバトンを受け取り、共に歩み始めてくれたパートナーは今回の取り組みにどんな印象を受けたのでしょうか。

「環境事業を大きなベースとして捉えている私たちにとって、POPという最新の原料を活用できるというお話をいただいて、面白い!やりたい!と率直に思いましたね」。

そう話すのは、POPボトル容器の製造・供給を担うサプライヤー、立花容器株式会社の岡野社長。

同社は1915年に岡山県倉敷市で酒の醸造に用いる木樽の製造からスタートし、1961年には日本で初めてプラスチック製の漬物桶を開発。そして30年前からペットボトルの製造も開始し、木・プラスチック・ペットボトルの製造メーカーとして創業100年を越える企業です。予てよりリサイクル原料を活用した農業・産業資材などの製造を行い、植林や環境保全の取り組みにも力を注いできた同社にとって、今回のプロジェクトは非常に喜ばしい機会であったと同時に、ラッシュの掲げる理念と相通じるものを多く感じ、前向きな思いが募っていったと岡野社長は話してくれました。

歴史あるメーカーにとっても国内初の取り組み。そこには数多くの困難があったのではないかと尋ねると、意外な言葉が返ってきました。

「最初は東南アジアで集められた原料で大丈夫かな、と不安だったんです。でも実際にトライアルしたら、今までの製造条件を変えることなく量産ができたので良い意味でびっくりしました。メーカーとしては非常に扱いやすい原料だったんです。最新の原料ですけど、これは使いたいなと思いました」。

そう笑顔で話す岡野社長。

基本的にリサイクルされた原料は、ボトルを成形する際の品質低下や劣化がネックとなりロス率や製造サイクルにも影響を及ぼしますが、POPで試作をしたところ、品質も従来の素材と大きく変わらず、今までの製造条件を変えることなく予想以上の短期間での量産を実現できたそうです。

「回収されたプラスチックが、とても丁寧にリペレットされているからだと思います」。

インドネシアで回収されたプラスチックが台湾で丁寧な工程を経て、ボトルの素材となるペレットに姿を変え、日本の岡山県へと渡ってくる。適切なインフラと透明性の高いサプライチェーンの中で繋がれたバトンであるからこそ、POPは高品質なボトルへと生まれ変わることができるのです。

この革新的な取り組みと再生素材の未来について岡野社長は話します。

「POPは非常に加工しやすいので、他メーカーさんでも導入の敷居は高くないと思います。一般的な素材と同等の物が作れることが理解されると様々な展開が増えていくでしょう。国内初となるPOPボトルの製造メーカーとして私たちもPRしていくつもりです。それが広がり商品が増えることで結果的に環境問題に寄与したり、東南アジアでの意識も必ず変わってくると思うんです。すごく大きな話ですけど、必ずそういう時代になると思います」。

国内初という大きなチャレンジに対して、前向きに挑んでいただいた立花容器さんはラッシュにとってこの上ないパートナーであると同時に、素晴らしい前例を築いてくださいました。

「一年以上の期間をかけた取り組みが形になって、お客様の元に届くのが本当に楽しみです。まだ導入されたばかりなので、お客様や様々な方にどんどん伝えていきたい。POPは海洋プラスチック問題に対してより直接的なインパクトを与える取り組みです。POPを知っているか否かに関わらず、使用することで結果的に海洋プラスチック問題の解決にも繋がっていくので、ラッシュとしても私としても気持ちの良い素材を導入できたなと嬉しい気持ちです。勿論、とても使いやすい素材なので、私たちだけでなく他の企業の方々が導入していけば、本当に日本全体で環境問題の解決に取り組めると思っています」。

そう話すChiemi。

化粧品業界、国内でも初となる今回の取り組みは、まだ始まったばかりです。そして私たちだけでは、地球規模で起きている海洋プラスチック汚染問題の根本的な解決に時間がかかってしまうでしょう。重要なのは私たちが手にしたPOPという取り組みや、素晴らしい前例を、国内や世界の多種多様な業界・企業に繋いでいくこと。そうすることで「よりみずみずしく豊かな地球」を次世代へと残し繋いでいくことができるのではないでしょうか。

ラッシュで商品を購入してくださる多くのお客様の手にも、そんな未来へと繋ぐ透明で美しいバトンが握られています。その時は、私たちラッシュの取り組みや海洋プラスチック問題のことを思い出し、そのストーリーを次の人へと繋いでいただけたらと思います。その小さな波はやがて大きくなり、着実に世界を変えていくはずです。

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