Lush Fresh Handmade Cosmetics Financial report FY24

2025年4月10日公開

2024年6月30日終了年度に関するレポート

取締役会は、Lush Cosmetics Limited(以下「当社」)、及びその連結子会社並びに関連会社(以下、総称して「当グループ」)の2024年6月30日に終了した会計年度に関するストラテジーレポートをここに提出いたします。

主な事業内容

当グループの主な事業は、フレッシュハンドメイドコスメティクスの製造、及び小売業です。2024年6月30日時点において、ラッシュブランドとして子会社、関連会社、及びライセンス契約先を通じて、50の国と地域で小売店舗、6ヵ国で製造拠点を運営しています。2024年6月30日時点での常設店舗総数は869店舗(2023年:857店舗)、そのうち666店舗(2023年:668店舗)は当グループの子会社により、運営されています。当グループの子会社及び関連会社は、財務諸表の注記26に記載されています。

868

グローバルの店舗数

ストラテジー

私たちの戦略はシンプルです。それは、あらゆるニーズに応じた商品を作ること。アメリカ各地に展開する大型ショップと、世界の他の地域に点在するショップには、さらに多くの商品を展開できる余地があり、スパにおいてもより多くのサービスを提供する余地があります。これらのショップやスパを訪れるお客様のニーズは、競合他社によって十分に満たされていないのが現状です。

ショップで展開する商品の選択は、各ショップマネージャーに委ねられているため、各マネージャーが地域ごとのニーズに応じたキュレーションを行います。その選択肢を広げるために、商品ラインナップを拡張しています。また、これまで成功してきた市場変動が少ない地域においては新たな出店数を増やし、より多くのお客様がラッシュで買い物できる機会をさらに増やしています。2026年にはイタリアとフランスで新たなフランチャイズ展開を、インド及びインドネシアでは新たなパートナーとの取り組みを予定しています。これらの地域では、今後10年で約30店舗の展開を目標とし、さらにトルコやパナマ、キプロスといった小規模市場への進出も計画しています。

この3年間、多くの競合他社が店舗数を大きく減らしていますが、ラッシュは可能な限り多くの場所でお客様にサービスを提供する事業モデルを維持しています。ロシアでの再出店は依然として難しく、中国本土での事業展開も動物実験の義務に関するポジティブな変化はあるものの、現時点では保留としています。一方、UK内のパートナーとともにラッシュホテルの構想を検討中です。

ラッシュのデジタルコマースは継続的に成長を続けており、現在アプリ経由の売上はデジタル売上全体の29%を占めています。2025年にローンチ予定の「Lush Club」では、オンラインとショップでリワードや会員限定のエクスペリエンス、コミュニティ主導のコンテンツを提供していく予定です。現在、アプリのユーザーが175万人を超え、ラッシュはソーシャルメディアではなく、自社プラットフォームを通じたお客様とのつながりに注力しています。

170万人

ラッシュ公式アプリのユーザー

AIやソーシャルメディアの運用において倫理的なアプローチを堅持し、ビッグテックへの依存を縮小することに引き続き取り組みます。ラッシュがビジネスを展開するマーケットにおいて自社開発のPOSレジ、及び在庫管理システムを導入することで、デジタル上での自立性を強化しています。これにより、クリック&コレクト(店頭受け取り)やエンドレスアイル(店頭にない商品もオンラインで購入できる仕組み)など、より柔軟な購買体験をお客様に提供できるようになります。

また、今後は映画スタジオとのコラボレーションやポエトリー・ファーマシーとの更なる協業を楽しみにしています。詳細についてはデボラ・アルマ、マーク・コンスタンティン、ケイト・ダウニー・エヴァンスの共著「The Poetry Business School」をおすすめします。ラッシュのショップ、及び主要書店でお求めいただけます。

いくつかの収益性が回復した今、キャッシュの蓄積につながる機会を模索していきます。この方針のもと、2024年には苦渋の決断としてドイツ・デュッセルドルフの製造拠点を閉鎖し、北米の生産拠点をカナダ・トロントに統合しました。現在の見通しの通り25%の関税が導入された場合、このコストはアメリカのお客様に直接転嫁されることになると見込んでいます。アメリカで新たな製造拠点を建設する予定はありません。デュッセルドルフの生産機能はUK・プールへ移管されました。今後は、クロアチアの製造拠点での製造能力を拡大していくことを目指しています。また、世界各地に点在する小規模な「フレッシュキッチン」と呼ばれる製造拠点を強化し、特にヨーロッパ各国のショップへの流通体制を改善していきます。さらに、在庫管理の効率化と北米や新しいパートナーマーケットでの規制強化に対応するためのシステムの刷新も進めています。

多くの企業が政治的価値観の変化を口実に旧来の姿勢に戻る言い訳として利用している中で、私たちは人、動物、自然環境全てにとってリジェネラティブであること、そして地球をよりみずみずしく、豊かな状態で次世代に残すという姿勢を一貫して貫いています。原材料の調達を通じてポジティブな影響を生み出すことを目指し、野生生物の保護、気候変動へのレジリエンス強化、人権リスクへの対応などを実現するために、サプライヤーの皆さんとの協働に取り組みます。ショップや製造拠点では、100%再生可能エネルギーを使用していることを誇りに思っています。同時に、以下の2つの主要な分野でキャンペーンカンパニーとしての活動を継続します;政府、産業界、NGOと連携し、Better Science(より良い科学的手法を優先することで動物実験の廃止を推進すること)、そしてより安全なソーシャルメディアの実現に向けたリーダーシップを発揮することの2つです。

消費者心理は、過剰宣伝をともなう超加工された化粧品から離れつつあります。私たちは業界他社との本質的な違いを、まずはスタッフから始まる口コミの力を通じて伝えていくことに注力します。競合各社が何十億という広告費をかける中、心のこもったサービスやブランドのバリュー、ラッシュの顔となる香り、スパのトリートメント、ヘアラボでの特別な体験、フレッシュな商品が肌のマイクロバイオームに働きかける効果、そして原材料の素晴らしい品質をもってお客様に選ばれることこそ、ラッシュのブランドとしての誇りなのです。

世界中で困難な状況が続きますが、どんな時も人は人であるということに変わりはありません。トラウマに直面した時、人とのつながりや安心感を得ることで回復するのです。あるお客様がラッシュのことをハイストリートにおける「思いやりのオアシス (an oasis of kindness)」と表現してくれました。私たちはこの言葉に恥じない存在であり続けたいと願っています。

業績の概要

上記の表は、当グループにおけるマネジメントアカウント(管理会計)、及びファイナンシャルステートメント(財務諸表)両方の2024年度(2024年6月30日終了)の業績を示したものです。マネジメントアカウントは、日常的な事業運営に社内で使用される数値であり、ディレクターやシニアマネージメントチームに年間を通じて共有されます。ファイナンシャルステートメントはFRS102(UK会計基準)に準拠して計算・開示されており、意思決定には直接関係しない決算調整項目も含まれています。私たちの見解では、マネジメントアカウントの方が当年度の実際の営業成績をより明確に理解できる情報であり、前年度との比較よりも有意義に行えるものです。尚、両者の業績の照合表、及び調整項目の性質に関する追加説明については、付録1に記載しています。

上記の考え方をもとに、以下の2024年度業績の概要は、マネジメントアカウントに基づいています。

当グループの売上高は6億9,010万ポンドで、前年の6億9,240万ポンドからわずかに減少しました。既存店ベース(「主要業績指標」欄で定義)では、売上は前年比1.7%減であり、その内訳はショップでの売上が-1.3%の減少、デジタルプラットフォームでの売上が-3.4%の減少となっています。第1四半期は好調なスタートを切り、総売上は前年同期比で+5.7%の増加となりました。バービーやスポンジボブとのクロスブランドコラボレーションはお客様から好評で、ショップへの来店客数やオンラインショップのトラフィックを押し上げる要因となりました。

しかし、第2四半期はマーケットによって結果がまちまちであり、第1四半期の成長軌道を維持することに苦戦しました。ラッシュのビジネスで最も重要な商戦期である12月は、売上が前年比2.2%減少しました。ただし、UKを含む5ヵ国、約100店舗で1日の売上としては過去最高額を記録するなど、喜ばしいハイライトも多数ありました。また、グラスゴーの新しいアンカーショップでは1日の売上が10万ポンドを超え、1店舗あたり1日の売上高として過去最高を記録しました。

クリスマス後は、社内の新商品発売スケジュールや、イースターや母の日などの季節イベント時期の変動により、月ごとの売上高に多少の差異は見られたものの、全体としてはおおむね前年と同水準の売上で推移しました。過去2年にわたり、世界的な政治経済の混乱によって前例のないコスト上昇に見舞われるなか、その対応としてラッシュは原材料費、人件費、エネルギーコストの大幅な上昇に対応することを最優先課題としてきました。しかし、近年は売上成長の再活性化に焦点を移し、すでに前向きな兆候が見え始めています。

9

FY24に新たにオープンした店舗数

£690m

グループ売上高(FY24)

2024年度の最終月である6月には、リテールとデジタルの売上が合計で前年同月比+3.2%となりました。これには北米マーケットにおけるプラス成長も含まれています。最高の結果とは言えないまでも、堅実で粘り強い一年を良い形で締めくくることができました。

地域別では、日本が最も好調な市場となり、前年比+8%の著しい成長を遂げ、売上はパンデミック前の水準まで回復しました。対照的に、ラッシュ最大のマーケットである北米では-4%の減収となり、特に米国の業績低迷が主な要因でしたが、カナダの売上は前年と同水準を維持しました。第2のマーケットであるUKは、第1四半期の好調とクリスマス以降の売上回復傾向に支えられ、+1%の成長を記録しました。ヨーロッパ全体の売上は+2%増加しましたが、既存店ベースでは前年をわずかに下回りました。フランス、ドイツ、スペインといった主要マーケットでの業績は期待に届かない結果でしたが、チェコ、ハンガリー、そして特にスウェーデンなどの小規模マーケットでは力強い成長が見られました。 中東マーケットの売上は前年と同水準で、オーストラレーシアは-3%と小幅な減少となりました。グレーターチャイナは、2024年度上半期に起きた観光再開に伴う好調な市況に支えられ、+2%の売上増加となりました。

2024年、グループのEBITDA損失は690万ポンドで、前年2023年の240万ポンドの損失から拡大しました。この結果は、売上高が前年と同水準であった一方で、コスト構造が大きく変わらなかったことを反映しています。ただし、年度内にリソース配分の大きな見直しが行われました。社内で「ジグソー」と呼ばれる取り組みを通じて運用コストの効率化を図りつつ、ブランドとマーケティング活動への再投資を行うことで、売上成長の後押しを狙いました。このアプローチにより、物流、IT、プロパティ部門でのコスト削減に成功しました。また、原材料費全体を3%削減できたことも、大きな前進です。これは、過去2年間にエネルギー、人件費、原材料価格の高騰によって押し上げられたコストに対して、ようやく得られた安堵の兆しでもあります。

高品質で、最も倫理的に調達された自然由来の原材料を使うというラッシュのコミットメントは、不安定な世界市場の影響を受けやすい状況が続いています。その一例が、最近の世界的なカカオ価格の300%高騰であり、今後1年間で大きくコスト増を招く可能性があります。製造のオペレーションについては、計画していたいくつかの施策の進捗が予想より遅れているものの、数年以内に有意義な成果が期待される、重要な改革を進めています。全体として、オペレーショコスト削減によって生まれた資源は、戦略的にリテール部門の人員充足強化やマネージメント層のトレーニングやミーティングに投資を行い、ブランド・マーケティングへ再投資されました。

2024年の税引前損失は3,450万ポンドで、前年の3,350万ポンドの損失とほぼ同水準でした。これは、売上とオペレーションコストの安定性を反映しており、EBITDAセクションにあるように、コスト構造の内訳に変動はあったものの、全体的には大きな変化がなかったことを示しています。

財務状況

ラッシュグループは、2024年度末(2024年6月30日)時点で、現金から負債を差し引いた純負債額が1,170万ポンドとなり、前年(2023年6月30日)にレポートされた純現金3,370万ポンドから4,540万ポンドの悪化となりました。この変動は主に、関連会社であるCosmetic Warriorsからの借入により資金調達されました。この詳細は財務諸表の注記14に記載されています。純現金の減少は、主に3,480万ポンドにのぼる設備投資プログラムの実施と、年度内の営業活動によるマイナスのキャッシュフローが要因です。当年度の大規模な設備投資は、私たちが事業の長期的な将来を見据えた確固たるコミットメントを表しています。

この支出の70%以上は店舗設備に充てられ、これは私たちが実店舗の未来に引き続き信頼をおいていることを示しています。2024年中には、19店舗の新規出店、既存の14店舗を移転、そして3件の大規模改装を実施しました。これらの活動の多くは北米マーケットで実施され、9店舗の新規出店と9店舗の移転を通じて、グループ買収前に長年続いた投資不足を回収するショップの刷新を目的とした戦略の一環として行われました。

Lush Spaは、商品に加えてショップ内でのサービスと体験を提供する戦略の重要な柱です。当年度は、カナダと中東で初のスパを開設し、米国・ニューヨークのレキシントンではオリジナルのスパを再オープンしました。当年度のハイライトは、790平方メートルの広さを誇るアンカーショップ、グラスゴー店のオープンが挙げられます。街の中心部の理想的なロケーションにて、多面的なリテール体験を提供する圧巻のフラッグシップショップです。2024年6月30日時点の連結貸借対照表では、純資産1億580万ポンド(2023年:1億6,510万ポンド)、および純流動資産1,620万ポンド(2023年:7,500万ポンド)となり、健全な財務状態が反映されています。

従業員、エンゲージメント、多様性

生活賃金

私たちは引き続き、ラッシュのエシカル憲章に則り、全てのグループマーケットにおいて政府が定める最低賃金以上の賃金の支払いを行っています。当年度には、いくつかのマーケットで最低賃金と支払賃金の差額をさらに広げるための段階的措置を取り、香港やマカオ、北米で基本給の引き上げを決定しました。

北米においては米国、及びカナダ全域で時給15ドルを基本給とすることを当年前半に約束し、給与体系の簡素化を図りました。その結果、北米でのビジネスにおける初任給は勤務地に応じて時給15ドル-22ドルの範囲となっています。また、時給15ドルの基本給の公約を超える措置も講じました。54の州や地域、226のショップで給与率を引き上げ、総投資額は309万5,000カナダドルとなりました。

ニュージーランド、アイルランド、UKのリテール事業においても実質生活賃金の支払いを継続しています。特にUKでは、今年実質生活賃金が10%上昇し、リテール部門だけで年間320万ポンドの投資となりました。製造部門でも引き続き、全ての正社員に実質生活賃金を支給し続けています。さらに、ドイツとハンガリーでは、ウェルビーイングに関する給付やフードバウチャーなどの新たな福利厚生を導入しました。

公平性、多様性、包括性 (ED&I)

ラッシュグループは包括性の促進、公平性の実践、ビジネスの多様性を高めることにコミットしています。“All Are Welcome, Always”という行動指針を実現するため、そして我々が目指す企業となるために、全社的な協働アプローチを継続しています。グループとして障がいのある応募者を尊重し、役職に必要な要件を満たす場合は公平に選考を行っています。また、従業員が障がいを持つようになった場合にも雇用の継続、成長の支援、能力開発、再訓練の機会提供を継続して支援します。

ラッシュのCo-createプログラムでは、社内の様々な部門のスタッフが参画し、文化的な祝祭にちなんだ商品開発を行います。今年はこの取り組みがさらに進化し、専任のプロジェクトリードが配置され、体制が整いました。ディワリ、ハヌカ、死者の日などの祝祭に合わせた商品は、ラッシュのスタッフによって開発されたものです。商品開発者や専門的なフォーミュラの開発者、コピーライターと連携しながら、このプログラムはまるで小さな商品開発インターンシップのような存在となっています。

ラッシュのコミュニティネットワーク(従業員リソースグループ)を組織内に根付かせることで、従業員がED&Iの方向性に主体的に参画できる仕組みを構築しています。これらのネットワークは従業員のエンゲージメントに関する貴重な洞察を共有し、ビジネスに対するフィードバックを提供する役割も担っています。UKでは、新たに6名のコミュニティネットワークのチェアマンが任命され、任期は2年間です。UK、北米の双方において、コミュニティネットワークはラッシュのGoogleライセンスが活用され、ネットワークメンバーは17%増加しました。さらに、2024年の夏にはUKと北米でメンターシッププログラムが導入され、チェアマンとシニアリーダーがペアを組み、ガイダンスやキャリア開発のアドバイス、ネットワーキングの機会などを通じ、相互の育成と成長が可能となっています。

UK、及び北米ではその他にも多くの取り組みが行われています。その一例が、危機的な状況において誰もが支援を得られるよう、より積極的かつ協力的に行動できる体制を作るためのクライシス マネージメントパックです。また、様々なチームと協力してキャンペーンに登場するモデルの多様性の向上、職務内容や採用、トレーニングセッションへのED&Iの組み込み、包括的なリーダーシップ実践とキャンペーンの展開などの取り組みを進めています。

従業員共益信託

ラッシュの株式の10%は、従業員を代表する形でラッシュ従業員共益信託(Employee Benefit Trust、 以下EBT)により保有されています。2017年に設立されたEBTは、ラッシュのビジネスの繁栄とラッシュのエシカル憲章に基づく企業倫理を堅持するとともに、従業員の貢献を正当に評価する仕組みであると信じています。このEBTは、社内での規模、認知度、信頼性を高めており、ビジネスと従業員のために本来の目的を果たすべく進化を続けています。

現在、27の国と地域で約13,600人の従業員が受益者となっており、EBT代表者の総数は827人です。これらの代表者は、全社的な選挙によって民主的に選出されています。

EBTとその代表者たちは、以下のラッシュの価値観を体現する上で重要な役割を果たしています。 それは、グループ全体の従業員と経営陣の双方向コミュニケーションを促進することで、従業員の感じていることや現場の声をタイムリーに共有し、ラッシュの使命である「地球をよりみずみずしく、豊かな状態で次世代に残す」ために平等に参加できるよう貢献できることです。こうした活動は、従業員限定の社内出版物「The Lush Insider」、定期的な業務、及び業績のアップデート、リーダーシップ層による対面・デジタル両方での直接的なコミュニケーション、全社イベントなどを通じて、全ての従業員が直接、情報や知識を得らるための継続的なエンゲージメントを促進しています。

現在のEBTの信託理事会は5名で構成されており、取締役会選出の受託者2名、従業員選出の受託者2名、そして独立した受託者1名が参加しています。グローバルな視点を確保するためにも受託者の構成は重要であり、現在の従業員選出受託者は、オーストラリアとドイツ在住です。また、EBT理事会での経験を維持していくためにも受託者の任期はずらして任命され、次回の従業員代表選挙は2025年に実施予定です。

発展途上にあるラッシュの従業員オーナーシップは、7年目を迎えました。今後も経験と知見を蓄積しながら、EBTと従業員オーナーシップ文化の発展に取り組んでいきます。将来的には、従業員の声をあらゆる側面に反映し、ラッシュの倫理観と独立性を守ることを目的としています。

既存株主が将来的にその株式を売却したいと希望する際には、会社が株式を買い戻す代わりに、EBTに対して当該株式が再発行される形で株式の譲渡が行われる予定です。現在、すべて株主は事業に関わりがあり、売却の際には純資産価値、あるいは過去3年間の税引後利益の平均を5倍にした金額のうち高い方が適用されることに同意しています。将来的には、EBTが保有する株式比率を35%まで引き上げることを視野に入れています。

Charitable Giving

2024年6月30日終了の会計年度において、ラッシュグループ全体(子会社、関連会社、ライセンス契約先、フランチャイズ契約先を含む)では、660万4,000ポンド(2023年:816万8,000ポンド)の資金が集まり、そのうち570万ポンド(2023年:978万6,000ポンド)をチャリティやその他の団体に助成・寄付しました。このうち、556万9,000ポンド(2023年:948万8,000ポンド)はラッシュグループからの寄付となっています。未寄付分の資金については、翌年度に繰り越して配分されます。ラッシュのチャリタブルギビングは常に革新的かつ効果的な支援を目指し、環境保護、人権擁護、動物保護の分野で活動する小規模な草の根団体への支援を中心に行われてきました。他の支援機関からは見過ごされがちな団体や社会課題の根本的な原因にアプローチするキャンペーンや教育、アクティビズムを重視しています。なお、支援先は登録された団体だけに限定されません。

当年に集まった資金の大部分は、ショップやオンラインで販売されたハンド&ボディローション『チャリティポット』の売上によるものです。2024年の助成・寄付先は以下の通りです。

Lush USAは、アメリカ大陸で最も絶滅の危機に瀕しているネコ科動物、アンデスネコの保護に専門的に取り組む唯一の団体、Andean Cat Alliance(通称、Alianza Gato Andino、又はAGA)に助成金を提供しました。AGAはアンデスネコの生息する4ヵ国(ペルー、ボリビア、チリ、アルゼンチン)において、この美しいネコの保護を目的とした多分野での連携、国境を越えた取り組みを主導しています。Pawsitive Actionsプロジェクトは、市民参画を促し、野生猫の健康状態を追跡・監視する現地調査を組み合わせ、責任あるペットの飼育を促進することで野生生物、家畜、人間への有害な影響を軽減することを目指しています。

Lush USAは、WaterLegacyにも助成しました。この団体は、計画中の硫化鉱山が湿地帯と野生生物に与える影響、毒性金属による水質汚染、魚の水銀濃度上昇、先住民の権利侵害を懸念する住民によって設立されました。ラッシュからの助成によりミネソタ州最高裁での訴訟に勝利しました。これは、地域の先住民やコミュニティにとって重要な魚やワイルドライス、その他の文化的、及び食料資源が保護されることを意味しています。

Lush Newzealandは、アオテアロア(先住民族であるのマオリの言葉でニュージーランドの意味)での科学実験に使われる動物の保護に取り組むチャリティ団体、New Zealand Anti-Vivisection Society(NZAVS)へ助成しました。1978年から動物実験廃止に向けて闘い続けているNZAVSは、動物実験の廃止、そして倫理的、科学的に多くの問題を抱える科学分野での動物の悪用を廃止するため活動しています。NZAVSの調査結果によると、人間への影響を試すための実験に動物を使うことは信頼性が乏しく、90%以上の確率で正しい結果を示さないとされています。

Lush Italyは、ジェンダーに由来する暴力の防止、性的・感情的関係における安全な行動の推進、及びジェンダー平等と公平性を目的としたプロジェクトを運営するVanveraを支援しています。Vanveraは、フランスのポッドキャスト「Le Coeur sur la table」のイタリア版である「Il Cuore scoperto(開かれた心」)の制作を助成しました。このポッドキャストは、恋愛関係を題材にしたジャーナリスティックな調査を通してジェンダーの先入観を解体し、性的・感情的関係における互いの尊重と平等を呼びかける番組です。

また、Red Flareはイギリスでのファシズムの再台頭、そしてこのことがマイノリティグループや政治への革新的な声を上げる人々を敵視するという社会的状況を生み出す可能性に懸念を抱く、反ファシストを掲げる調査団体です。Red Flareは最先端のオープンソースと調査手法を用いて、イギリスにおける極右勢力の活動を記録、公開し、反対の姿勢を貫いています。ジャーナリストと協力して、極右グループやそのオーガナイザーやアクティビストの動向を公表し、極右勢力から脅威を受けるグループやこうしたに勢力に立ち向かうグループとも情報を共有を行っています。

Lush UK&Irelandでは、チャリティポットを通じた寄付金が、イギリス極右グループに対する潜入調査用の監視機器購入費用に充てられました。

Lush UK&Irelandは、サフォーク・ヘリテッジ・コーストにおける2基の原子炉建設に反対するStop Sizewell Cを資金面で支援しました。SizewellC の建設は気候危機を解決するには時間がかかりすぎ、リスクが高く、コストも莫大であると考えられています。

Lush Japan
イオンモール秋田店のスタッフは、FunDで助成した一般社団法人 ピースボート災害ボランティアセンターが地域のボランティアセンターにて行った活動に参加し、地域コミュニティを支援しました。7月の豪雨で3,200戸の住宅が水害に見舞われた地域で長時間にわたり清掃作業に従事する住民に対し、ラッシュのスタッフは4日間にわたりハンドマッサージを提供しました。この活動には、多くの感謝の言葉や称賛の声が寄せられています。「私の父の家は7月の大雨で浸水し、毎日清掃作業で疲労困憊でした。病院に行っても医師と会話することもなく、帰宅後は疲れきった様子で黙り込んでいました。25日に私が仕事から帰宅すると、父がマッサージのことを話してくれました。佐藤さんという方が今日、皆を元気づけるために来たと言っていたと教えてくれ、そのことにとても喜び、彼女とたくさん話したと言っていました。父はまた、『彼女の笑っている顔を見て、私も元気になった。本当に元気になった』と言っていました。豪雨のあとずっと疲れ切っていた父があんなに幸せそうな顔をしたのは久しぶりで、その話を聞くだけで、私も嬉しくて泣いてしまいました」。

Lush Franceは、気候正義のための非暴力行動を組織し、市民不服従運動を支援するANV-COP21へ助成しました。この助成プロジェクトは、関連団体を監視するITツールの開発と、地域グループの能力向上を目的としたイベントツアーを開催し、公正な移行を加速するための取り組みの強化につながっています。

気候と自然に関する進捗

2024年、アマゾンで1,130万エーカー以上の熱帯雨林が焼失したことは世界に衝撃を与え、そのうち3分の1が原生林でした。この状況を受け、ラッシュの2024年度の「気候と自然に関する進捗レポート」では、気候変動の影響がサプライチェーンに与える影響が拡大していること、そして全社のオペレーションが直面することになるさらなる気候リスクについて説明しています。ラッシュは全社を挙げて脱炭素化のための道のりを策定していますが、化石燃料に依存しない未来への投資とともに、気候変動への適応とレジリエンスの強化を優先しなければならないことは明らかです。2023年のIPCC報告書によれば、約33億から36億人が気候変動に対して極めて脆弱な状況下で生活していると指摘されています。こうした人々の多くは、ラッシュのサプライチェーンに位置するコミュニティに居住しています。つまり、気候正義、適応、緩和はこれまで以上に重要です。

今年の気候変動の影響により、私たちは行動主導型のアプローチをさらに加速させる決意を新たにしました。2024年6月30日終了会計年度(FY24)では、EBITDA上の損失により、脱炭素化へ向けた野心的なプロジェクトへの資本支出(Capex)は制限されましたが、地球、人、そして動物のために「地球をよりみずみずしく、豊かな状態で次世代へ残す」という使命に突き動かされ、ラッシュは新たなプロジェクトや挑戦、緩和戦略を策定しています。このレポートでは、今年気候変動に基づいたシナリオ(及びその財務的な影響)にどう適応し、どう緩和策を講じ、それらが財務に与えた影響についても取り上げます。ビジネスとしてのラッシュの強みは、迅速な対応力にあります。自社でフォーミュラを刷新し、世界7ヵ所の拠点で製造を行い、商品カテゴリーやビジネスモデルを再構築し、気候変動の緩和や気候正義に取り組む草の根団体へ資金を提供しています。革新性と迅速な対応はラッシュが構築してきたビジネスの核心であり、気候変動への対応とその影響の緩和においてもその優位性を発揮しています

ラッシュの気候変動と自然に関する進捗レポートは以下の3つのセクションに分かれています。

1.0 ラッシュの「気候と自然に関するプラン(Climate & Nature Plan)」の進捗

2.0 カーボンフットプリントとSECR*レポート(*英国におけるエネルギー使用量・炭素排出量報告制度)

3.0 気候に関連する財務情報の公開

ラッシュの「気候と自然に関するプラン」進捗

企業としてのラッシュの未来は、健全な森林や土壌、海洋、そして野生生物と深く関連しており、この自然とのつながりこそが、「地球をよりみずみずしく、豊かな状態で次世代に残す」ための原動力となっています。

私たちの最大のフォーカスは、2030年までにラッシュの事業運営における化石燃料の使用を可能な限り削減することです。これを実現するには、大きなコミットメントと投資が必要ですが、同時に世界各地のサプライチェーンのある自然環境に投資し、生態系が再生、繁栄できるようにすることも目指しています。こうした目標を社内全体に浸透させ、従業員、サプライヤーの皆様、そしてお客様とともに取り組むため、5つの主要アクションを明確化しています。

ラッシュの中核戦略は、サプライチェーンネットワークとバイイングを活用して、生物多様性のホットスポットや炭素吸収源(マングローブ、湿地、森林、健康な土壌など)を保護することです。サプライチェーンの中で森林破壊のリスクを軽減し、自然保護や再野生化を促進する原材料調達を拡大することが鍵となります。

2024年度には、専用のサプライチェーンマッピングソフトを活用し、直接取引先であるティア1のサプライヤーの80%以上をマッピングすることができました。現在、全サプライチェーンの約20%についても可視化が進み、4,319件の間接サプライヤーが登録されています。このプラットフォームを活用し、EU森林破壊防止規制や環境基準への適合に必要な文書や情報を収集しています。2024年には、新たに衛星ベースのツールを導入し、「森林破壊リスクが高い原材料」のGPSデータを用いて、土地利用の変化を時間軸で重ねて把握できるようになりました。これにより、ラッシュが使用する原材料が森林破壊が起きている土地から調達されていないかを確認し、リスクのある地域での森林破壊の発生の可能性を軽減することが可能になります。

2024年、自社商品にパームオイル由来の原材料を使用しないという継続的な取り組みの結果、2,505トンに及ぶパームオイルの代替として1,164トンのパームフリーの原材料を使用しました。これにより、サプライチェーン上の森林破壊リスクの低減を大幅に低減することになりました。また、森林保護活動を行った地域内における野生動物への影響を調査するための生物多様性モニタリングも意義ある進展を遂げました。主要な保全プロジェクト地域に新たなカメラトラップを設置し、ラッシュが助成したプロジェクト地域でジャガーやピューマ、オランウータン、トラ、ペリカンといった野生動物の姿をとらえることができました。

ラッシュでは、原材料調達に関わる地域において、複数のプロジェクトを支援しました。これらのプロジェクトは、優先度の高い地域の自然環境の保全を目的としています。ボルネオでは現地のコミュニティメンバー350人と連携し、実施した土地利用マッピング調査を実施しました。このプロジェクトは、ラッシュがイリペナッツを調達している残存する原生林の保護を目的としたもので、手つかずのまま残る原生林が必要とする土地所有権証明書と社会的林業プロジェクトのステータスを把握するための取り組みです。

また、グローバル全体で従業員の通勤状況の調査を実施しました。この調査では、5件の回答ごとに1本の植樹を行うインセンティブを設け、500本分の植樹を行う回答数が集まりました。これを受けて、会社側が同数をマッチングさせ、この数を2倍にし、合計で1,000本の植樹が実現しました。この取り組みをウガンダのLush Investments パートナー農家であるAlumalumと連携し、Alumalumによりアフリカンマホガニーの苗木1,100本を植樹しました。ポルトガルのコルク林の再生と再野生化、そしてティモールにおけるLush Hubs サンダルウッドプロジェクトへの支援も行いました。このプロジェクトでは、Lush HubsチームがWALHI Nusa TenggaraとGreen Justice Indonesiaと連携し、スンバ島とティモール島でサンダルウッドの苗木を生産、再植樹しています。(年末までに30,000本を目標)。 これらのプロジェクトは、森林と地域コミュニティのさらなる劣化を防ぐだけでなく、将来的な気候リスクへの脆弱性を減らし、風土そのもののレジリエンスを高めることが期待されています。

私たちの取り組みは、パワーダウンとパワーアップの両輪で成り立っています。まずはエネルギー需要を削減し、化石燃料を全て再生可能エネルギーに置き換えるという、エネルギーの削減と再生可能エネルギーへの転換を組み合わせた取り組みです。ラッシュは、自社で商品の開発、製造、販売を行っていますが、それは自社で所有していない建物で行っています。そのため、改修やLED照明などのエネルギー効率化への投資、可能な限り環境に負荷をかけないサプライヤーからの電力調達、及び再生可能エネルギー証書の購入には、建物の所有者の協力が不可欠です。リテール部門では化石燃料ガスの使用を概ね廃止しており、現在は製造拠点の電化を段階的に進めています。

2024年度についてはCapexに制約があったため、比較的手が届きやすい施策を優先して行っています。グループがより安定した現金基盤を持ちえた際には優先的にCapex予算を使うことができるよう準備をしています。製造拠点のポートフォリオについては、日本の製造拠点を対象に詳細なエネルギー監査を実施し、2025年度に向けたエネルギー改善の優先順位を明確化しました。UKでは、バスボム製造ルームでは、LED照明導入に5,000ポンドを投資しました。クロアチアでは、製造拠点のの移転、及び賃貸契約更新の一環としてネットゼロ建物の選定を調査中です。リテールでは、新店舗の改装を優先し、UKのグラスゴーにオープンしたショップでは、不必要なエネルギー消費を削減するための二重扉やLED照明を導入しました。年初には、ショップ向けの電力削減を促す社内向けのコミュニケーションパックや節電マニュアル動画を公開し、ショップでの実践を促しています。

2024年には、再生可能エネルギーの調達において大きな進展がありました。現在は、パートナーマーケットにおいても、再生可能エネルギーのみを発電、供給する電力会社との契約など、ディープグリーン・タリフへの移行を実現し、環境価値の高い再生可能エネルギー証書(RECS)の購入を組み合わせることで、実質100%再生可能エネルギー電力の調達を達成しました。(パートナーマーケットを除く) これは、ラッシュの再生可能エネルギー移行における重要なマイルストーンです。現在は、パートナーマーケットとの契約においても同様の基準を適用するための交渉を進めています。さらに、ドイツと北米マーケットでは、廃棄物埋立ガスを使用し、再生可能な埋立ガスの調達を継続しています。RECSの見直しにあわせて、イタリア、オーストラリア、ニュージーランドが新たにディープグリーン・タリフへ移行したことにより、ラッシュ全体の建物の40%がディープグリーン・タリフを使用、残り60%がRECS購入を組み合わせた通常の電気契約という状況となっています。2025年は、より多くのマーケットをディープグリーン再生可能エネルギー契約へ以降することに注力していきます。

ラッシュにとって最も野心的なタスクは、ネットポジティブなサプライチェーンを構築し、パッケージを完全な循環型にすることです。これらの取り組みにおいて、私たちは人の暮らしと生計の保護を中心に捉え、アグロフォレストリーなど環境再生型農業からの原材料調達を優先し、調達地域でのリジェネラティブな取り組みへの資金提供、農家へのトレーニングやデモ用農場への投資などを行っていきます。ラッシュとしてのこうした取り組みは、15年以上前から始まっており、現在も進化を続けています。循環型の観点から、現在は可能な限り廃棄物を削減すること、素材が持つ価値を最大限活かしながら循環利用すること、そして自然環境の再生に注力しています。ラッシュが生み出し、開発し、製造しているのは、ゴミを出さないネイキッドな化粧品です。2008年以降、商品の容器やボトル、ギフト包装などには再生素材やオーガニック素材を活用しています。

今年は「インセッティングスキーム」を通して、中核サプライヤーとの間で75,000ポンドを投資し、炭素削減・除去プロジェクトを実施しました。水資源が特に重要課題となった今年は、乾燥・半乾燥地域に焦点を当てた取り組みとして、イタリア南部でレモンとマンダリンの畑でのアグロフォレストリーの試験的導入を開始し、ニジェールでは250の農家がマルラとバランティスの直まき技術の研修を実施しました。ペルーのイカ砂漠では、在来種を使った1,000メートル分の緑のフェンスの植樹に資金を提供しました。また、ブラジル・ピアウイ州では、ハチミツのサプライヤー、カーサ・アピス社と連携し、乾季でもミツバチの食糧源となる植樹プロジェクトを支援しました。モロッコのアルガンオイルサプライヤーとの新たなプロジェクトも、間もなく開始される予定です。


その他の生態系においては、エクアドルの熱帯雨林の森林再生とアグロフォレストリーを支援するため、タグアの苗床設立への共同資金提供を行いました。インドネシアのニアス島では、150人の農家がリジェネラティブ農業のトレーニングを受け、新規にココナツの木と野菜、果樹を組み合わせるという多品目混合栽培へ転換できるようになりました。また、農家が自分たちで行う有機認証システムの運用方法に関するトレーニング も実施され、多くの農家が従来の慣行農業から環境再生型農業へと移行しています。私たちは現在、これらの取り組みを炭素量として数値化するためのFLAG (Forest, Land and Agriculture)手法の公表を待っており、土地利用における炭素除去・削減量の算定作業を開始する予定です。

直近の会計年度における循環型経済への貢献については、容器返却プログラム「BRING IT BACK」を通じてお客様から約270万点の容器が返却され、全体の平均返却率は15%、このスキームに則って扱われたプラスチック量は63.5トンに達しました。また、2024年度に販売されたネイキッド商品は約1,800万個に達し、全販売個数の約64%を占めるまでに成長しました。特にこの動きを牽引しているのはヨーロッパ各国です。さらに、スプレーやポンプの再生材使用率を55-65%にまで引き上げることを決定し、全てのカテゴリーで100%再生プラスチックを使用するという目標に近づいています。また、UK国内のラッシュの自社リサイクルセンターの活用と廃棄物の最終処理を行う優れた外部業者との提携により、世界中の製造拠点における総廃棄物の68.4%をリサイクル、コンポスト、再利用することができました。

輸送に起因する温室効果ガス排出量の削減は、依然として最も困難な課題の一つです。ラッシュのサプライチェーンはグローバルな輸送インフラに依存しているため、この削減については新技術や世界的な輸送インフラの変革を待たなければなりません。2030年までに輸送由来の排出を完全にゼロにすることは困難かもしれませんが、ビジネス目的の航空便や航空輸送の大幅な削減、自社車両や輸送パートナーの陸上輸送の電気化、そして持続可能性が証明された新規代替燃料の早期採用といった取り組みにより、削減は可能です。廃油や動植物油脂を原料としたHVOs(高価値油)など、過渡期的な戦略の活用は予期せぬ環境影響を伴う可能性があるため、注意が必要であると認識しています。

今年、ラッシュでは航空輸送の削減をグローバルの年間目標として掲げました。全ての製造拠点はUK本社から輸入される商品、及び原材料の輸送について、航空輸送と海上輸送の割合を80:20に設定することに合意しました。この目標を達成するため、各拠点が発注頻度とプラニングを見直し、以下の表に示す結果を達成しました。


カナダでは、北米における陸路と航空輸送による排出削減に向けたタスクフォースチームを立ち上げました。このチームは物流チームを鉄道輸送にフォーカスさせ、バンクーバーとトロントの製造拠点間での鉄道輸送率を73%にまで高めました。これは素晴らしい成果ですが、鉄道ストライキの増加によりサービスが中断されることは考慮する必要があります。また、フレッシュ商品の出荷を週1回に集約し、海上輸送を優先するためにより適切な出荷計画にも取り組みました。さらに、25店舗で「ラストマイルサービス」を導入し、お客様が製造拠点ではなく最寄りのショップから商品を受け取れる仕組みを導入しました。この施策は、2025年度に更なる拡大を予定しています。クロアチアでは、航空輸送における環境負荷の低減を目的に、GO GREEN社とパートナーシップを開始し、持続可能な航空燃料(SAF)の購入を行いました。また、自転車通勤を選択したスタッフに報奨を支給する「グリーンボーナス制度」も開始しました。UKでは、電動フォークリフト資産の拡充と設備統合により、ディーゼル車の燃料消費量を40トン分削減しました。

気候危機の原因に最も関与していない人が、その最も深刻な影響に苦しんでいます。

すでに被害を受けているコミュニティへの支援、気候アクティビストや先住民コミュニティとの連帯、そしてこれまで述べてきた全ての取り組みを「気候正義」の視点から行うことが重要です。ラッシュはUKの企業であり、UKにはその歴史的責任があることから、他国以上の責任を負う必要があります。私たちは、社内外で気候正義についての教育や意識向上に努めるとともに、最前線のコミュニティの声に耳を傾け、支援し、ともに立ち上がることを誓います。この取り組みは、私たちのキャンペーン、チャリティ活動、化石燃料からの脱却によって支えられています。

今年、私たちは世界各地のショップ、及びデジタルプラットフォームを通じて、660万ポンドを草の根団体に寄付しましたが、そのうち57%が自然環境の保護のために、さらに20万ポンドは先住民の土地や未開の生態系を守るために最前線で活動を方々に寄付されました。グローバルでのリテール、及びデジタルプラットフォームを通じて、誰もが自然とつながる権利を主張する「Right to Roam(自然享受権)」の重要性を訴えるなど、気候正義についての認知向上と行動を呼びかけました。マレーシアでは、Marine Ecology Reserch Centerと協力し、地元団体と共にサンゴ礁の植え付け活動を継続的に支援しました。これは、海洋生物のための生息地を創出し、サンゴ礁の回復を助ける長期プロジェクトの一貫です。また、先住民族や脱化石燃料拡大活動に従事する7名の活動家がCOP28に参加できるよう支援しました。

さらに、FY24は化石燃料からの撤退、ダイベストメントについてもいくつかの節目を迎えました。寄付関連の口座(チャリティポット、エシカルキャンペーン、スタッフセール、スタッフハードシップファンド)で完全にダイベストメントした銀行を始めて通年で使用した会計年度となり、余剰資金を化石燃料投資を行わないエシカルバンクへ移行しました。

ラッシュのカーボンフットプリント

UKの会社法2006年に組み込まれた気候変動関連財務情報開示規則(Climate-related Financial Disclosure Regulations)に準拠し、ラッシュは現在、事業にとって最も重大な気候、及び環境関連リスクを把握し、事業全体にそれらのリスクに関する対話を根付かせることを目指しています。その中心となるのが、当社のカーボンフットプリントの管理です。

以下のグラフと表は、2024年6月30日終了会計年度におけるラッシュグループの定量的な炭素排出量を示しています。これらの排出量は、ラッシュグループ全体を対象として算出されており、全てのグローバルマーケットの排出量が反映されています。排出量データの対象範囲の詳細は、 表1に記載されています。

Figure 1. Carbon emissions FY24 broken down by emission source

ScopeEmission sourcetCO2e%
1Gas2,455.81.2%
1Bath bombs328.60.2%
1Refrigerants482.30.2%
1Fleet fuel322.70.2%
1Sourcing hub fuel140.20.1%
2Electricity8,559.74.3%
2Sourcing hub electricity90.0%
3Supply chain (raw materials & packaging)76,266.238.6%
3Customer use61,366.031.1%
3Indirect spend13,015.86.6%
3Freight18,999.79.6%
3Business travel3,815.01.9%
3Commuting3,276.81.7%
3Franchises2,919.71.5%
3Upstream energy2,723.61.4%
3Waste1,602.20.8%
3Digital fulfillment686.30.3%
3Customer use (Bath bombs)6570.3%
Total197,627100%

上記のグラフと表からわかるように、スコープ3の排出量が炭素排出量全体の93.8%を占め、そのほとんどがサプライチェーンにおける原材料とパッケージ(38.6%)、及び販売商品の顧客使用(31%)となっています。販売商品の顧客利用に起因する排出量は、各商品の使用時に必要なお湯の使用量と、そこから発生するエネルギー使用量に基づいて算出された推定値により計算されています。これらは全体の31%にあたりますが、ラッシュがこの排出量に直接働きかけることは難しく、唯一できることはお湯の使用を減らせる商品へのシフトをお客様に促すことです。それでもこうした排出量の原因となっているのが自社の商品であることを認識し、それらを排出量としてレポートに含めることで透明性と説明責任を果たす姿勢を取っています。

一方、スコープ1とスコープ2は全体の排出量の約6.2%を占めるにすぎないものの、ラッシュがより直接的に管理できる領域であり、化石燃料に依存しない運営への移行が可能な分野です。スコープ1とスコープ2については、確固たる脱炭素化戦略を掲げていますが、2024年度のCapexの制限により、LED証明や建物のエネルギー効率の改善といった投資回収が早く、小規模な取り組みを優先的に進めることとなりました。また、製造施設、及びショップの1平方メートルあたりの炭素強度を把握し、将来的にCapexが可能になった際の投資優先順位を明確化するための調査にも注力しました。

サプライチェーン由来の排出については、より正確で詳細なサプライヤーデータを年々取得できるようになってきており、各原料における脱炭素化の方向性を再設計するための情報が整いつつあります。また、インセッティング施策として、過去3会計年度にわたり実施してきた主に土地利用やエネルギー効率の向上に関する取り組みは、炭素排出の削減、及び吸収の促進に加え、生物多様性、農業コミュニティ、土壌の健全性、そして生態系全体のレジリエンスの向上といった副次的な恩恵ももたらしています。(上記の進捗レポートでご確認ください)

国際輸送は、全体の排出量の9%にあたり、16,000tCO2eを上回っています。航空輸送の影響は非常に負荷が高く、輸送トンキロメートル(輸送された貨物の重さと距離を示す値)全体の14%に過ぎない航空輸送が72%の排出量を占めています。海上輸送はトンキロメートル全体の59%を占めますが、排出量は4%に留まっています。陸上輸送はトンキロメートル全体の25%、排出量は23%となっています。

スコープ3の残りの部分は、原材料以外の間接的な購買(例えば業務用品、ITサービスなど)や、出張、廃棄物処理などのその他排出源に該当し、これらを合わせると全体の約8%となります。

データの正確性と詳細度を今後も継続的に向上させていくために、下記の表では各排出エリアごとの現時点でのデータ品質についてのコメントを示しています。これにより、2025年度のカーボンフットプリント分析に向けた改善の方向性を明確にすることができます。

全拠点で100%再生可能エネルギーの実現

今年はCapexの制限により、ガス使用の代替に関する投資を大きく進めることは叶わなかったものの、100%再生可能エネルギー電力の使用を達成するという大きな節目を迎えることができました。今後もこのステータスを維持するために、日々の支出の中で再生可能エネルギーへの支出を明確に区分し、継続的に資金を確保していきます。なお、この成果は前述の排出量チャートには反映されてはいません。(※各ロケーションに準拠した排出係数を使用しているため) 各マーケットごとの電力については、排出量を0tCO2eまで削減することができました。

ラッシュが所有する全拠点では、ラッシュの定める区分に基づき、再生可能エネルギーの指定を行っています。具体的には、通常の電力会社からのグリーンタリフ契約、再生可能エネルギーのみを供給するディープグリーン電力会社との契約、再生可能エネルギー証書(REC)又は同等の仕組みの導入、そしてショッピングモールなどの地権者により電力が供給されている建物でラッシュによるコントロールができないといった区分に分けられます。

ラッシュはディープグリーン電力会社との契約や高品質のRECの購入を通じて、100%再生可能エネルギーの利用を約束していますが、一部のショップなど電力の選定がラッシュの管理下にないロケーションに関しては、使用電力量以上のRECを購入することで、その分を補填しています。

2024年度にラッシュが使用した全電力量に対して、再生可能エネルギー電力の購入(バンドル型、アンバンドル型を含む)で100%以上をカバーしました。余剰として購入した再生可能エネルギーは110MWhで、再生可能エネルギーの使用量が消費量を下回ったマーケットは、他のマーケットで余分に購入したRECによって相殺されています。RE100のガイダンスに基づき、年間100MWh未満の小規模な電力しよう(かつ、ラッシュの管理外)については、除外が可能とされています。(ただし、1マーケットあたり最大100MWh) ラッシュは、このRE100の基準に概ね準拠しながら、100%再生可能エネルギーの実現を今後も継続的に推進していきます。

また、各ロケーションに準拠した排出係数を使用した際の排出量も過去より減少しています。これはUKを始めとするラッシュの主要マーケットの電力グリットにおける再生可能エネルギー割合増加や、自社のオペレーション内での電力使用量削減の取り組みの成果に起因しています。

UK Streamlined Energy and Carbon Reporting (SECR)

UKのラッシュにおけるSECR報告書では、Lush Retail、Manufacturing、Limited、及びCosmetic Warriorsの4つの主要法人におけるエネルギー使用量と炭素排出量に関する分析を提供しています。活動データは、燃料やエネルギーの請求書や明細書など、複数の拠点から収集されました。データが不足している場合(例えば、家主が電力を管理するショップ、当該請求書が紛失されている場合など)には、適切な推定値を用いて、面積比、又は他の比例配分により補完しています。冷媒によるフロン類のリーク量は機器類の点検記録から算出しています。また、バスボム製造施設でのバスボム製造に伴う排出量は、既存の化学反応の化学両論やバスボムの硬化中に生じる質量減少に基づいて算出しました。活動データを炭素排出量へと変換するにあたっては、該当する報告年におけるUKの環境・食糧・農村地域省発行の変換係数を使用しています。

以下のデータは、UKのドーセット州にあるラッシュ本社を中心とした主要なオペレーション拠点に関連するエネルギー、及び炭素データについて、さらなる洞察を提供することを目的として、当社の年時SECR報告書から抜粋されたものです。

エネルギー消費量、及び炭素排出量を床面積で正規化することで、エネルギー使用の強度には変動があるものの、全体としての炭素排出強度が時間の経過とともに減少していることを示すことができます。

電力の総消費量は、延床面積の増加に伴い前年より増加しました。これは主に、グローバル製造拠点がUKへ移行したことによるものです。しかし、2015/2016年度以降、床面積が35%増加したにもかかわらず、総排出量は約28%減少しています。これは主に、再生可能エネルギーの普及による、UK内での電力グリッド強度の低下によるものです。また、ラッシュは脱炭素化への取り組みの一環として、各施設の電化への移行を進めています。例えば、誘導加熱コンロ、電気温水器、電気自動車、電動フォークリフト、電気のみで稼働する施設(Unit 1、Unit 17、ビークストリートオフィス、DQ、及び多くの実店舗)などが挙げられます。ラッシュが2030年の目標として掲げるネットゼロ排出を達成するためには、エネルギー消費削減プロジェクト、電化オペレーションの拡大、そして高品質の再生可能エネルギーの安定供給が不可欠です。

Lush UKでは、国内の大半の施設でヴィーガン再生可能エネルギー電力を使用し、ビジネスの責任と環境負荷の最小化を徹底しています。UKとアイルランド全体では、85%の施設がEcotricityの100%再生可能エネルギーを、90%が同じくEcotricityのカーボンニュートラルなガス供給を利用しています。下のグラフは、ロケーションベースとマーケットベースの係数を用いた炭素排出量の絶対値の推移を示しています。

気候に関連した財務情報の開示

ラッシュは企業として、レジリエンスを混乱に耐え迅速に回復する力と捉えています。レジリエンスを培う上で重要な要素は、将来起こり得る様々なシナリオがビジネスに与える潜在的なリスクと機会を深く検討し、それに応じてビジネスプロセスや戦略を調整することです。この必要性は、ラッシュのビジネスモデルやヴァリューチェーン全体に影響を与える可能性のある気候リスクにおいて、とりわけ重要です。

このレポートでは、持続的なレジリエンスを培い、気候リスクを理解し、管理していくためのステップについて説明しています。その過程は、地球をよりみずみずしく、豊かな状態で次世代に残すという私たちの使命を実現するための一環でもあります。。

ラッシュの経営陣は、グループの気候変動関連開示が、「気候変動関連財務情報開示規則  2022 (以下、「規則」)に規定された推奨事項、及び開示内容と整合していると判断しています。また、気候変動関連財務情報開示タスクフォース(以下、「TCFD」)の枠組みを活用し、これらの規則に基づき必要な情報を分析、理解、開示しています。こうした開示により、ラッシュが気候関連のリスクと可能性をどのようにガバナンス、戦略、リスクマネジメントに取り入れているか、また環境負荷を削減するための取り組みと主要な指標、目標を明らかにしています。


ガバナンス

エシカル憲章:ラッシュの行動指針を定めた「エシカル憲章」は、法的拘束力を持つEBT(従業員共益信託)信託証書の規定によって、改ざんや悪用から保護されています。これは、全社で遵守すべき指針です。ラッシュの核となる価値観や倫理観はエシカル憲章に詳述されており、その一つに環境指針となる考え方の一つが、ラッシュの「グリーンポリシー」です:「ラッシュは地球上の資源利用において、自分たちに常にチャレンジを課しています。変わり行く世界情勢のニーズに合うポリシーで、自分たちの影響を減らし、最小限にしようとしています。空輸、エネルギー利用、埋め立てになる資材、リサイクル率、汚染や廃棄物のような分野で挑戦をし目標を立てています。」

EBT (従業員共益信託):株式の10%を従業員が保有する企業として、EBTはエシカル憲章の守護者となり、この生きている地球に対する責任を果たします。EBT受託者サークルは、従業員代表、外部受託者、及び2名の取締役が含まれます。

取締役会とリーダーシップ:ラッシュのシニアマネージメント(リーダーシップ)チームは、全ての公式取締役やディレクターで構成されています。取締役と創立者、そしてリーダーシップメンバーが参加し、経営企画や戦略に関する議題を扱う定例のシニアマネージメントミーティングが開催されています。グローバルアースケア責任者2名は、「マフィア」と呼ばれる毎月開催のリーダーシップミーティングに参加し、気候関連課題について議論します。ラッシュは、環境活動家によって設立された企業でもあり、気候危機や生態系危機に関する認識は創立当初から社内に根付いています。ラッシュのビジネスは関係性を基盤としており、経営陣や従業員はこれらの課題を現場での経験や日常的な会話を通して直接実感しています。私たちは全ての仕事が気候に関する仕事であるという原則のもと、ファイナンスチームのビジネスパートナー、マネージャー、プログラムチームメンバー全員にアースケアの職務を組み込むことを期待しています。

グローバルアースケア チーム:気候と自然に関するラッシュの取り組みは、「気候と自然に関するTO DOリスト」に基づき、グローバルアースケアチームが主導しています。このチームには、オペレーション、インテリジェンス&レポーティング、エンゲージメントの領域に対応するマネージメントロールがあります。

  • 環境レポーティング&インテリジェンス:この領域の担当は、グローバルにおけるラッシュの環境に対する影響を把握し、分析、脱炭素化への道筋を描く役割を担います。全スコープの炭素排出計算や法令遵守(気候変動関連財務情報開示規則を含む)を行う部門です。
  • 環境オペレーション:この領域は、会社全体の様々な部署に属するオペレーションパートナーで構成されています。 例えばサプライチェーン、製造、リテール、そして再生可能エネルギーの調達を担当し、脱炭素化を推進するエネルギー専門家も含まれます。環境パートナーの役割は、環境に配慮した運営と改善を社内の全部門に組み込むことです。一部の部門では、環境パートナーとして部署のリーダーシップ会議(例えば製造経営会議)などに参加しています。
  • 環境エンゲージメント: この領域は、全ての従業員やお客様に対して気候、及び自然課題への意識を高める役割です。プレス活動やショップでのキャンペーン、ワークショップやトレーニングなどを通じて、気候リテラシーを高める役割です。ラッシュには、エシックスに共感した従業員が多く集まっており、一人ひとりが「地球をよりみずみずしく、豊かな状態で次世代へと残す」ためのアクションに関われることが経営陣が重要視する点でもあります。

多くのメンバーは、毎週開催されるEnvironmental Core KPIs ワーキンググループに参加し、気候、及び自然に関連する目標に対する進捗状況をレポートしています。このレポートの多くはその後、取締役会やリーダーシップチームにも共有されます。本年度は、ESG関連の新たな法規制への確実な対応と、気候・自然に関するガバナンス体制のさらなる強化を目的に、ESGコンプライアンスリードを新たに採用しました。

ストラテジー :ラッシュの取締役会の方針は一貫して、ビジネスターゲットよりも気候変動に対するアクションに注力してきました。そのため私たちは長年にわたり、実践的で行動の伴うアプローチにフォーカスし、脱炭素化への道のりを大幅に短縮することができました。ラッシュはヴィーガンや再生可能エネルギーの導入を他社に先駆けて行ってきた企業であり、13年以上前から環境再生型農業に着手しています。ただし、気候リスクを体系的にマッピングし、正式な緩和先着を策定するという取り組みは比較的新しく、社内でのさらなる議論や努力が必要とされています。

今年は、これまで「潜在的」とされていた気候関連リスクが現実のものとなりつつあることが確認されました。北米では異常気象によるショップの臨時閉店、サプライチェーン側でのコスト増が気候変動によりさらに悪化するという影響が生じました。現時点では財務的に大きな影響はないものの、私たちは今後も気候関連リスク戦略の見直しと強化を継続的に行う必要があると再認識しました。また、今年の気候変動による課題への対応から明らかになったのは、ラッシュが創立以来持ち続けてきた「アジャイル」で「革新的」な企業であるという志向が、結果としてこのような影響の軽減につながっているということです。さらに、地政学的な出来事や戦争(原材料の調達やエネルギー、輸送関連の問題につながるもの)もまた、リスクの理解と緩和の必要性はますます高まっています。

これを受けて、ラッシュでは気候リスクに関するワークショップを複数開催し、バリューチェーン各部門のリーダーたちとともに、短期、中期、長期それぞれのリスクをマッピングします。これらの議論は今後も毎年継続的に深めていく必要があります。

短期、中期、長期的なリスク:ステークホルダーとの対話を通じて、経営陣は気候関連の計画に関する時間的な視野を設定しました。ラッシュでは、長期的な平均値より短期的な極端な事象を重視する短期志向の視点を基本としています。こうした時間軸は、資産のライフサイクルや、老朽化した製造施設の改善に伴う課題も考慮しています。

短期:0-2年

中期:2-5年

長期:5-10年

2023年5月に行われた初回のレビューでは、気温上昇や気候変動関連政策、新技術の登場からなる移行リスクと物理的リスク、新たなビジネスチャンスについて検討し、財務への影響を評価・定量化するための手法について合意されました。物理的リスクとは、異常気象や世界的な気温上昇を要因として起こりうる事態に対するものであり、移行リスクとは、低炭素経済への移行に伴う政策変更から生じるリスクを指します。

FY24中には、北米において気象要因によるショップの部分的、または全面的な休業が合計330件発生し、米国、及びカナダのショップの56%にあたる143店舗に影響が出ました。この事例から、今後は地域別のより詳細な気候影響分析の必要性が明確になりました。特に脆弱な地域においては、売上と天候との相関を追跡するトラッカーの作成を予定しており、これに基づいて気候パラメトリック保険の導入の検討も進める予定です。

現時点では、気候関連リスクは特定されているものの、財務計画に正式に組み込まれてはいません。これは、リスクとビジネスチャンスの財務的影響の定量化がまだ完了していないためです。ただし、これまでに観測された過去の気候影響とそれが業績に与えた影響を踏まえ、今後1年以内に主要なリスクの定量化を進める強い意欲があります。この分析により、例えば特定の地理的地域におけるリスクの重大性に応じて、より現実的な招待の業績予測が可能になると考えています。現時点では分析は継続中ですが、この取り組みによって長期的な持続可能性とレジリエンスがより一層高められることが期待されています。

シナリオ分析

主要なステークホルダーとの対話を通じて、今後の分析に向けて以下の2つのシナリオを詳細に検討することにしました。気候シナリオとは、地球温暖化の程度と低炭素社会への移行レベルが異なる中で、起こり得る未来の仮想的な状態を指します。ラッシュでは、1.5℃シナリオが現実的でなくなってきていることも認識しています。このままでは、気温上昇が1.5℃を超える見込みであるため、来年の報告書では、より深刻なシナリオを想定し、それぞれのリスクに対して財務的影響を測定可能な形で掲示する必要があります。2つのシナリオの概要は、以下のスクリーンショットと表に示されています。

シナリオ下でのレジリエンス:ラッシュは、長期的な気候レジリエンスを高めるために、新たな商品レンジの開発、代替フォーミュラの準備、気候変動に強い製造拠点の構築、エネルギー効率や室内環境、防災性能の向上などを含む戦略を模索しています。こうした戦略は現在のところ定性的に策定されていますが、サプライチェーンの強化は長年の重点分野です。バイイングチームは継続的に、環境再生型農業を行うレジリエンスの高いサプライヤーからの原材料調達を推進しており、カバークロップやアグロフォレストリーなどの手法を通じて、農場の気候耐性向上を図っています。

サプライチェーンでは、多くの新しい戦略が取られつつあります。 One Planet Bioregionツールを活用して、エコロジーの観点からランドスケープを分析し、各生態系で崩壊を引き起こす要因を把握し、原材料の供給にどう影響するかを把握しています。今後は、コミュニティを基盤とした経済レジリエンス計画の策定に取り組む予定で、単一作物に依存しているサプライパートナーが多いため、それに備える計画を内外から策定していきます。

財務業績への影響:29ページにある通り、ラッシュではすでに気候関連の問題が通常通りの営業に支障をきたすケースが発生しており、今後も続くと見込んでいます。測定指標セクション、及びリスクレジスターでは、財務影響を把握するための指標を定義し、継続的にモニタリングする体制を整えています。

ラッシュでは、イノベーションにより年々ビジネスの方向性が変化するため、長期的な事業計画はあまり採用していません。しかし、各部門における年次の予算や売上予測プロセスは確立しており、ここに気候リスクに基づいた財務シナリオの導入を始めています。気候関連リスクは、各会計年度の初期段階における作物収穫量の予測状況としてバイイングチームに共有され、計画に反映されています。

以下は、2030年までの気候リスクが財務に与える影響を、現在の傾向に基づく想定値として試算したものです。

  • 原価の上昇:過去2年間で気候変動などを背景にコストが550万ポンド増加(6.1%増加)。今後も2年ごとに約5%の増加が続く場合、2030年までに追加で1,500万ポンドのコスト増加が予想されます。
  • 来店客数の減少傾向:このままのペースで進行した場合、2030年までにさらに25%の減少が見込まれます。これは、効果的な対策が講じられていない場合を想定した数値です。(当年については、この影響を緩和する対策を実施)。これにはショッピング体験の充実、体験型サービスの追加やコンバージョン率の向上、デジタルプラットフォームのアクセス性の強化で対応を図っています。北米では、ショップごとの気候×来店数トラッカーを活用し、パラメトリック保険の導入も検討しています。
  • 異常気象による店舗閉鎖による売上損失:北米地域のショップがハリケーンや山火事、暴風雨などの極端な悪天候により閉店するケースが予測されており、2030年までに年間112−200店舗が影響を受け、70万-120万カナダドルの売上損失が見込まれてます。

リスクマネジメント

ラッシュには現在、気候関連リスクを組み込む正式なリスクマネジメントの枠組みが存在しません。そのため、気候リスクの特定は、個別のプロセスとして扱われており、この形式でのリスクマネジメントは会社にとっても新しい試みであり、より多くの分析を実施することで多くの情報を得ていくという段階的に進化している最中です。アースケアチームとTCFDグループは社内の様々な部署のリーダーと協力し、既存、及び潜在的な気候リスク、機会、影響をマッピングする活動を進めています。この取り組みは2021年に開始され、当初はリテールと製造拠点におけるリスクの特定と分析からスタートし、その後も継続して拡大しています。また、商品の原材料調達を担当するバイイングチームやグローバルな製造拠点の代表者など、様々な組織での重要なステークホルダーとも連携し、各事業領域がどのような気候リスクに晒されているか、将来のリスクや既存の脆弱性を理解するための作業を行っています。さらに、重要な原材料が生育するバイオリージョン(生物学的地域)単位での詳細なリスク分析も行っていく予定です。

リスクの特定:TCFDワーキンググループは、全社のバリューチェーンに関わる様々な事業部門を代表するステークホルダーと連携し、これらのリスクの潜在的重要性の早期評価を含め、物理的リスクと移行リスクを特定しました。これらのステークホルダーは担当領域によって、以下に分類されています。

  • ビジネスモデルとイノベーション
  • サプライチェーン
  • 製造とロジスティクス
  • リテール店舗
  • お客様とコミュニティ

これらのグループとのエンゲージメントは年に一度実施され、新たに観測されたリスクの把握や既存リスクの重要性が変化していないか評価しています。さらに、各事業部門は、経営陣や創立者に対し、四半期・年次のレポートの一環として、気候リスクが財務業績に与える影響について報告しています。これにより、こうした事象を四半期単位で記録、把握することが可能です。現時点では、リスクの多くが対話の中で認識され、部門の四半期レポートを通じて特定されています。

データの収集インフラ:ラッシュでは、全社的に将来の潜在リスクを追加し、各部門ごとの財務影響を定量化できることを目的に、環境リスクレジスターを開発しました。このレジスターはライブドキュメントとして運用され、新たなリスクが特定されるたびに更新される「生きた」登録簿です。初期には特に重大なリスクを中心としたものでしたが、今後は関連するビジネスチャンスにもより深く分析していく予定です。TCFDワーキンググループでは、ラッシュの全体戦略と見通しに基づき、短期、中期、長期のタイムラインを定義し、このタイムラインを環境リスクレジスターに組み込んでいます。

また、サプライチェーンに関連する気候リスクデータについては、すでに農作物の植え付けや収穫の時期に合わせて、四半期ごとにレビュー、集計を行う強固なプロセスが確立されています。現在、グループ全体のERPシステムやデータ収集ソフトを見直しながら、製造システムにおける商品ロスなど、気候リスクや影響に関連したデータのタグ付け強化を目指しています。こうした改善が進むことで、ラッシュ全体の気候リスクをより抱括的に把握できるようになる見込みです。

指標と目標

目標 – Directors Report内の「気候と自然に関する進捗レポート (Climate and Nature Progress Report)」には、私たちが掲げている気候と自然プランの目標、例えばFY30年までに100%再生可能エネルギーなどが記載されています。これらの目標は、まだ気候関連リスクとそのビジネスチャンスの直接的な結び付きは明記されていませんが、一部の目標が移行リスクとの関連していることは認識しています。この複雑かつ困難な道のりのスタート地点に立っており、リスク評価やリスクマネジメント分析の進展に伴い、継続的に見直されていく予定です。

指標 – ビジネスのレジリエンスを高める様々な取り組みの有効性を理解するためには、パフォーマンスの経年変化を測定可能にする指標の設定が必要です。これまでは専任チームを持つマーケットにおいては、環境関連の指標を収集、分析してきました。現在では、全世界共通の指標リストが整備されつつあり、今年後のカーボンフットプリントのレポートにも見られるように、これらの指標に関するグローバルデータの質の向上にも取り組んでいます。これらの指標は、社内的には毎年We Are Lushのウェブサイト、及びDirector’s Report上で社内に報告されています。

以下は、現在ラッシュが任意で追跡している指標の例です。財務的・非財務的影響の両側面でのダブルマテリアリティ対応を目的とし、気候と自然に関するTO DOリストに基づいて、設定されています。なお、気候変動、及び炭素排出に最も関連性の高い指標は、太字で示されています。

全体的な炭素測定基準 スコープ1、2、3の絶対排出量、入手可能な場合は過去の排出量も含む 科学的根拠に基づく目標、森林、土地、農業(FLAG)ガイダンスに従った除去量原材料をリジェネラティブに、そして循環型に
ネイキッド% カテゴリーごとのネイキッド商品比率 ネイキッド商品の売上比率(個数 、価格) 廃棄製造・リテールにおける廃棄総量
製造・リテールにおける廃棄転換量
廃棄原単位 リテール:売上1ポンドあたりの廃棄物kg(物価指数で補正)
廃棄原単位 製造:製造数1つあたりの廃棄物kg
リテールでの商品廃棄割合(コストに占める割合)、及び製造における廃棄の割合(製造個数に占める割合)
廃棄商品の寄付率
容器返却プログラム
容器返却プログラムによる返却個数
容器返却プログラムによる返却重量
ショップ、マーケットごとの容器返却率
パッケージ
リサイクル、オーガニック、または再生可能なパッケージ資材の重量比(社内向け梱包資材と顧客向けパッケージ資材の比較)
使用された原材料の割合
パッケージに使用される原材料の総量
梱包材原単位 製造:製造単位あたりの包装材kg
サプライチェーン
自然素材の土地利用(ha):
改善された管理下での割合:生物多様性に配慮、多年生、アグロフォレストリーまたはポリカルチャー、土壌保護技術、天水栽培、無農薬
環境共益を有する原材料の数とトン数
社会的共益をもたらす原材料の数とトン数
炭素濃度と気候変動リスクを含む、原材料の土地に対する負荷の複合リスク指数
森林保護、野生の保護 パームオイル代替品を含む原材料の割合 野生保護パートナーシップからの原材料の数 自然、自然由来、合成物質それぞれの重量による割合輸送に関わる排出量を抜本的に削減
輸送に関わる総排出量を以下のタイプに配分:人間の移動と商品の輸送の割合
航空輸送、陸上輸送、海上輸送、各輸送手段のtkm割合

100%再生可能エネルギー エネルギー消費量(kWh) リテールでのエネルギー原単位:kWh/m2 • kWh/ポンドごとの売上 製造でのエネルギー原単位:kWh/m2 及びkWh/製造アイテム1つ当たり グローバル全体での消費における再生可能エネルギー電力の割合水に関する測定指標 製造、及びリテールにおける水の総消費量
水消費原単位 リテール:1ポンドの売上(価格補正あり)ごとの水の使用量
水消費原単位:製造アイテム1つ当たりの水の使用量
バス商品売上% 水の不足が考えられる国ごと

Audio player image

12:11